殺しの烙印

2001/02/02 日活試写室
徹底してスタイリッシュだが内容は意味不明なカルト映画。
鈴木清順はこれが原因で日活をクビになった。by K. Hattori


 昭和42年に作られた鈴木清順最後の日活映画。この映画で「わけのわからない映画を撮る監督」というレッテルを貼られた鈴木監督は、翌年に日活を解雇されてしまった。日本でナンバースリーの殺し屋がある要人の警護を依頼されるところから物語が始まり、謎めいた女に依頼された殺しの失敗を経て、映画の後半は幻のナンバーワン殺し屋との対決になるという話の流れ。しかしどこがどうしてなぜそうした流れになるのか、僕にはちょっとよくわからなかった。物語が難解というより、そもそもこの映画は物語を観客に理解させることを最初から拒むようなところがある。映画の序盤はまだ何となく様子が分かるのだが、オープンカーの女が登場したあたりから物語は白日夢のような支離滅裂世界に突入し、最後は「なんじゃこりゃ〜」という幕切れになる。

 映画の最初から「ナンバースリーの俺が」とか「俺もかつてはランキングに入っていた」とか「これであなたはランキングから滑り落ちる」という台詞が続く。どうやらこの映画の中では、ボクシングやテニスのように「殺し屋の実力ランキング」というものが公然と存在し、殺し屋たちはそのランキングの上位に自分を位置づけるべく日夜努力精進を怠らない生活をしているらしい。映画のタイトルは『殺しの烙印』だが、映画の内容は“殺し屋のランクイン”の話になっているのだ。殺し屋のランク付けの話は、サブ監督の『ポストマン・ブルース』にも出てきたっけ。ひょっとしたらあれは、この映画からの引用なのかもしれない。引用といえば、主人公が洗面所の排水口からターゲットを狙撃するテクニックは、ジム・ジャームッシュの『ゴースト・ドッグ』にも出てきたなぁ。あれは完全にこの映画の引用でしょう。

 陰影のコントラストが強調された画面構成はやたらとスタイリッシュで格好いい。その中でやたらとキザでもったいぶった台詞が飛び交うのだが、この映画の中ではすべてそれが許されてしまう。エピソードの飛躍や強引な結合、しかも個々のエピソード自体も相当にぶっ飛んでいる。映画自体がかなり現実離れしているから、話が現実離れしていても気にならない。この映画の格好良さは、人気アニメ「ルパン三世」の初期シリーズにちょっと雰囲気が似ている。「ルパン」のスタッフたちがこの映画をどれほど意識してるかは知らないが、共通する要素がものすごく多いのは確かだ。「ルパン三世」の初期シリーズを愛している人は、『殺しの烙印』にもどっぷりとはまりこむに違いない。ちなみに鈴木清順は映画『ルパン三世/バビロンの黄金伝説』を監督している。

 ヌードシーンやラブシーンが多い映画で、この映画が公開された当時は画面が黒い塗りつぶしで埋め尽くされたという。今回は塗りつぶしのない完全版。鈴木清順が解雇されて数年後に日活はロマンポルノ路線に転じるけれど、この映画を観ると「鈴木清順がロマンポルノを撮っていたら……」とも思ってしまう。おそらくとんでもないカルト映画を連発したに違いない。

2001年春公開予定 テアトル新宿
配給:日活 宣伝:スローラーナー


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