小説家を見つけたら

2001/01/23 ヤマハホール
『グッド・ウィル・ハンティング』+『セント・オブ・ウーマン』。
ショーン・コネリーは上手いが、新鮮味なし。by K. Hattori


 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のガス・ヴァン・サント監督最新作は、ショーン・コネリー主演のヒューマンドラマ。処女長編1冊を出版したきり姿を消した天才小説家と、文才のある貧しい黒人少年が偶然出会い、生まれも育ちも違うふたりの間に深い友情が芽生えるという話だ。天才少年と彼を教え導こうとする大人の交流という意味では『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』と同じ話だし、偏屈な老人が少年との交流を通して自分自身の殻を脱ぎ捨てるという話はアル・パチーノの『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』と同じ。2時間16分もある大作だが、残念ながら新鮮味はない。丁寧に作られている映画なので大きな失望もないが、隠遁生活を送っている伝説の小説家というアイデア(サリンジャーあたりを意識しているのだろう)から、なぜこの程度の映画しか作れないのか不思議でしょうがない。

 これは結局、脚本が弱かったのだろう。脚本を書いたマイク・リッチはニュース番組のディレクターで、脚本家としてはまったくの新人らしい。アメリカの偉大な作家を紹介する番組を製作する中でこの映画のアイデアを思いついたという。この思いつき事態は悪くない。でもそこからドラマを作っていく段階で、構成やエピソードが貧相になっているのは弱点だ。映画化に際してはキャラクター造形などの点でかなり磨きをかけたというのだが、もともとの話にドラマの腰がないから、表面をどう繕っても力強さに欠けてしまう。どうしたって『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』や『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』の亜流映画になってしまう。

 この映画の中でキーになる人物は、F・マーリー・エイブラハムが演じるクローフォード教授だろう。英米文学の研究者であり、文芸評論家であり、学生の作文指導をしている人物。天才少年ジャマール・ウォレスをはさんで、一方には彼の才能を認め伸ばしていこうとする伝説の作家ウィリアム・ウォレスがおり、一方には彼の文才を妬んで才能の芽を摘み取ろうとするクローフォード教授がいるという人物配置だ。天才を妬むこの老人役にF・マーリー・エイブラハムがキャスティングされているのは、彼に『アマデウス』におけるサリエリのような役回りを演じてほしかったからだろうし、ねちねちと教官室で少年をいたぶる場面に『薔薇の名前』(主演はショーン・コネリー)の冷酷な異端審問官ベルナール・ギーの姿を期待しているからだろう。

 世の中には若い才能を伸ばそうとする教師だけがいるわけではない。学校というのは得てして非常に保守的な場所で、飛び抜けた才能を認めず、むしろ生徒の個性を平準化することに血道を上げる人が大勢存在するのだ。少年の作文を読んで「ブロンクス出身でバスケットの上手い黒人少年にこんな文才があるはずがない」と考えるクローフォード教授は、まさにそういう人物の典型なのだ。脚本の段階で彼がもっと大きく扱われていれば、この映画はもっと面白い作品になっていたと思う。

(原題:Finding Forrester)

2001年陽春公開予定 みゆき座他 全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


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