二人の短い物語
ニューヨークの片隅で

2001/01/08 サンプルビデオ
ニューヨークの路上でテープ売りをしている男を描く、
モノクロ・スタンダードのインディーズ映画。by K. Hattori


 既に日本で劇場公開されている『ステューピッド・イン・ニューヨーク』のマシュー・ハリソン監督が、一躍注目を集めるきっかけになった、'95年のサンダンス映画祭監督賞受賞作。この映画に惚れ込んだスコセッシが、『ステューピッド』の製作をすることになったという。16ミリ撮影のモノクロ・スタンダード画面はかなりハイコントラストで、これだけで趣味が分かれるに違いない。撮影日数は11日間。予算は1万1千ドルというから、インディーズ作品の中でも極端にお金がない方だろう。役者やスタッフは1日1食、ほとんどがノーギャラでこの映画を完成させたという。

 主人公サイモンは、路上で違法な音楽テープを売るしがない生活をしている。クールな一匹狼を気取ってはいるが、1本数ドルのテープを手売りして手に入るのは、おんぼろアパートの家賃がぎりぎり払えるだけの収入でしかない。そんな彼を、幼なじみのマーティーが訪ねてくる。彼女はサイモンの母親が病気で死んだことを告げると共に、彼に一緒に故郷に帰ろうと言うのだが……。

 主人公もかなりイカレた男だが、その周辺にいる連中はそれ以上にイカレている……というより完全に頭がおかしい連中ばかりという不思議な映画。サイモンがアパートに帰ると必ず現れる、「テレビを盗んだだろ。殺すぞ」と怒り狂っているオヤジ。このオヤジからテレビを盗んだ張本人らしい、隣家の神経質そうな青年。サイモンに金をせびり、女のことで愚痴を並べ、挙げ句のはてに簡単に裏切ってしまうテープ売りの男。こいつらは明らかにヘンだ。薄い壁越しに隣室から聞こえてくる喧嘩の声も、なんだか恐いぞ。サイモンに付きまとい、一緒に仕事がしたいとせがむフラー。サイモンと割り切った交際をしているつもりで、実は彼を愛し始めているシド。この二人はまだまともな方。すごいのはサイモンを訪ねてくるマーティーで、「これが死んだお母さんからメッセージよ!」と言いながら自分の両腕にサインペンでぎっしり書き込まれた文字を見せるわ、サイモンの部屋の壁に彼の母からの手紙をギッシリと書き写して行くわ、行動が相当にエキセントリック。なんでもこの女、一時期は精神病院に入院していたという設定。

 都会の生活で疲れきっている田舎町出身の青年を、故郷の元恋人が純真な愛で救い出すという、陳腐でありきたりなストーリーをなぞりつつ、映画の中には純真さのかけらもない。マーティーは頭がおかしいし、シドの変態チックなセックスも妙だと思う。海賊版を売るサイモンに腹を立てた人たちも、何も彼を本気で殺そうとすることないだろうに……。

 最後のオチに至る部分が、ちょっと理解しにくかった。このラストシーンは、主人公の見た夢ということなのかな。それとも現実か? 現実だとすると、それ以前のシーンから辻褄が合わない部分もあるけど。

 ボクは『ステューピッド・イン・ニューヨーク』もあまり好きじゃなかったから、まぁこんなものかなぁ。

(原題:RHYTHM THIEF)

2001年2月10日公開予定 池袋シネマ・ロサ(レイト)
配給:オンリー・ハーツ


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