ザ・クリミナル

2000/12/26 シネカノン試写室
売れないミュージシャンが巨大犯罪に巻き込まれる。
最後は大風呂敷広げすぎじゃないか? by K. Hattori


 売れないミュージシャンのJが、深夜のバーで出会ったちょっといい女。声をかけてみたら、さして話が盛り上がったわけでもないのに、案に相違して部屋までついて来るという。なんだかうまい話すぎる。どこかに落とし穴があるのではないか? はたして落とし穴はあった。しかも特大の落とし穴が。女と抱き合っているとき、突然現れた謎の男に彼女が殺されてしまったのだ。警察はJを容疑者として身柄拘束するが、身に覚えのないJは容疑を完全否定。物的証拠が出てこなかったことから、Jはあっさりと警察を保釈される。だがそんな彼に接触を持ってきた、謎めいた男たちがいた。どうやらJは、何かとんでもない事件に巻き込まれたらしい。

 ある日突然目の前で犯罪が起きるとか、身に覚えのない容疑で警察に逮捕されるとか、気がついたら大掛かりな諜報活動のまっただ中に置き去りにされているというのは、ヒッチコックが好んで取りあげたモチーフ。ヒッチコックの後に続くサスペンス映画はたくさんあるが、この映画もストーリーの点では同じ線に沿っている。監督・脚本のジュリアン・シンプソンは、この映画の脚本を23歳の時に書き上げ、監督したのは27歳の時。荒っぽいところもあるけれど、なかなかの手際だ。強引に話を進めるところも、ほころびを見せることなくスムーズに話を進めていく。ただしあまりにもスムーズすぎて、物語のポイントがわかりにくいところもある。

 この手の映画では、主人公を徹底的に追い込んで、そこからどうやって脱出させるかが見どころ。追い詰めて追い詰めて、最後に大どんでん返しの脱出成功というのが定石だろう。その点この映画の結末には、ちょっと腑に落ちないところもある。この結論を出すのであれば、その前に主人公を一度安全圏に逃がすという段取りが必要なんじゃないだろうか。追い詰めて追い詰めて、ちょっと逃げ場を作ってから、最後に押しつぶす。それがこの手の映画における定石だと思うのだが……。

 この映画が腑に落ちない印象を与えるのは、物語のプロットそのものが「ヒッチコック風」というきわめて古典的な枠組みの中にあるからだと思う。もちろんヒッチコックに似ているのは物語の展開だけで、演出部分ではヒッチコックに似ることを徹底して避けてはいる。でも物語の進め方は『北北西に進路を取れ』や『めまい』や『知りすぎていた男』なんだよなぁ。国際的な陰謀組織というのも、なんだかなぁ……。でもひょっとしたら、シンプソン監督本人はあまりヒッチコックを意識していないのかもしれないけど。映画体験として刷り込まれているものが、無意識のうちに出ただけなのかも。

 主演は『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スカートの翼ひろげて』のスティーヴン・マッキントッシュ。彼を追うベテラン刑事を演じたバーナード・ヒルがとてもいい。殺し屋役のイヴァン・アタルには、もうちょっと活躍してほしかった気もする。台詞なしで通すには、ちょっと弱い俳優だったかも。

(原題:THE CRIMINAL)

2001年3月公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:アルバトロス・フィルム


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