狗神

2000/12/18 東宝第1試写室
天海祐希も原田眞人監督もこの素材向きじゃないのかも。
坂東眞砂子原作の伝奇ホラー映画。by K. Hattori


 『リング』シリーズという強力な手駒を使いつくした、角川冬のホラー2本立て興行。今回は『死国』と同じ坂東眞砂子原作の『狗神』と、長坂秀佳原作の『弟切草』の2本立て。これが成功するか否かで、たぶん角川冬のホラーという枠組み自体が問われることになると思う。過去の実績があるから興行的に大失敗することはないと思うけれど、『リング』シリーズは“貞子”という強力なキャラクターの人気に助けられていた映画だから、それを欠いた新番組はかなり苦しいと思うけど……。

 『狗神』は四国の山奥にある小さな村を舞台にした伝奇ホラー。村の閉鎖的な環境、おぞましい男女関係の秘密、狗神筋と呼ばれる女たちの血の系譜などが次々と暴かれ、最後は村の旧家に伝わる奇祭の進行に合わせて一気にカタストロフを迎える。物語の狂言回しになるのは、都会から村の学校に赴任してきた若い教師。彼は山奥に紙すきの工房を持つ美希という中年女性と知り合い、間もなく男女の関係になる。なぜ彼女は中年になるまで独身でいなければならなかったのか。なぜ人との交わりを避けるように、山奥でひっそりと仕事をしているのか。そうした謎が少しずつ解けていくに従い、村の中には不吉で禍々しい空気が漂い始める。

 ヒロインの美希を演じているのは天海祐希。僕はこの人が宝塚を退団するときの「ミー・アンド・マイ・ガール」をテレビで見たときの印象が強いので、映画になると彼女に“薄幸の美女”といった役柄が割り振られるのが不思議でしょうがない。もっと男勝りで積極的に動き回る役の方が似合うと思うし、驚いた表情などにちょっとユーモラスなものがあるので、コメディが似合う女優だと思うんですけどねぇ。華のある女優さんなのに、いつもいつもこんなくすぶった役ばかりでは気の毒です。今回も相手役の渡部篤郎にずいぶんと遠慮した芝居になっているように思えて、なんだかすごくもったいなかった。宝塚時代からの彼女のファンは、映画女優としての天海祐希をどう見ているんだろうか。

 『リング』シリーズが女子中学生や女子高生を中心にヒットしていたらしいことを考えると、今回の『狗神』はもう少し上の世代を狙った映画になっているのだと思う。映画のテーマのひとつが近親相姦だし、かなり直接的な濡れ場なども用意されている。派手なショック演出でビックリさせるというより、地味な芝居をいくつも積み重ねてじわじわと恐怖を肥大させる演出になっているのも、『リング』シリーズとはちょっと違う。

 監督・脚本は原田眞人。『KAMIKAZE TAXI』『バウンスkoGALS』『金融腐蝕列島・呪縛』など、ここ数年は映画ファンにも評価の高い作品を連発している原田監督だが、今回の伝奇ホラーという素材は原田監督向きではなかったと思う。原田監督の演出はドキュメンタリー調のリアリズム。それがあまりにも強固なので、足下の土台がグニャリと歪んでいくホラー空間が成立しないのだ。丁寧な演出だとは思うが、資質の違いなんだろうなぁ。

2001年1月27日公開 全国東宝系
配給:東宝


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