ザ・ウォッチャー

2000/12/15 GAGA試写室
キアヌ・リーブス扮する殺人鬼がFBI捜査官を追い詰める。
捜査官役がジェームズ・スペイダーじゃなぁ……。by K. Hattori


 『マトリックス』のキアヌ・リーブスが連続猟奇殺人犯に扮したスリラー映画。犯人を追うFBI捜査官を演じるのはジェームズ・スペイダー。捜査官が犯人を追うのではなく、犯人が捜査官を挑発し、追い詰めていくというパターンの映画だ。残忍な連続殺人犯にスター俳優を配役するハリウッド映画はそう珍しくないが、多くの場合そうした配役は観客への目くらましとして行われる。つまり「犯人は誰か?」という観客の疑問を、「まさかこんなスターが犯人ではあるまい」という先入観で覆い隠してしまうわけだ。『サイコ』のアンソニー・パーキンスはその模範的な例だ。仮に犯人が誰か観客に察しがついたとしても、スター俳優が犯人であることは映画の途中まで必ず伏せられていているものだ。しかしこの『ザ・ウォッチャー』では、キアヌ・リーブスが最初から残酷な犯人として画面に登場してくる。観客の目の前で犠牲者を血祭りに上げ、犯人として名乗りを上げるのだ。これは「犯人は誰か?」「犯人をどうやって捕らえるか?」というミステリー映画ではない。映画の中で行われる犯罪は、犯人にとっては捜査官に接近するコミュニケーション手段。一種のラブレターなのだ。

 小学生ぐらいの年齢だと、男の子は自分の好きな女の子に何かとちょっかいを出し、逆に嫌われてしまったりするものだ。相手をかまって、何らかの反応が返ってくるのが嬉しいという心理。キアヌ・リーブス扮する連続殺人犯グリフィンは、そんな小学生がそのまま大人になってしまったような男だ。彼が愛した相手はFBIの捜査官キャンベル。相手が嫌がることをすれば、彼はムキになって自分のことを追いかけてくるだろう。それがグリフィンにとっては無上の喜び。FBI捜査官を怒らせムキにするには何をすればいいか? 彼の目の前で犯罪を犯すことだ。その犯罪は派手であればあるほどいい。予告された連続猟奇殺人。それがグリフィンとキャンベルを結びつける。グリフィンは殺人に性的な喜びを感じる変態ではない。殺人はキャンベルを振り向かせるための手段。犯罪の現場で彼は少しも慌てない。彼の目的は犯罪の後、捜査員の目を自分に引き付けながら、なおかつ逃げおおせるることにあるのだ。殺人はそのためのプロセスに過ぎない。グリフィンは犯行現場に一切の証拠を残さない。彼は殺人そのものにあまり執着がないのだ。

 作り方によっては面白い映画になりそうなアイデアだが、何か物足りなさの残る映画になってしまっている。グリフィンはキャンベル捜査官に倒錯した愛情を抱いているのだから、グリフィンを中性的な雰囲気でキアヌ・リーブスに演じさせるなら、キャンベル役にはもっと男っぽい骨太の俳優が演じた方がよかったのではないだろうか。キアヌ・リーブスとジェームズ・スペイダーがからんでも、少しもゴツゴツしたところがなくて迫力不足。スペイダーの相棒に男っぽいクリス・エリスを配役しているが、これがあまり生かされていないのは残念だ。マリサ・トメイも、いてもいなくてもいいような役。

(原題:THE WATCHER)

2001年正月第2弾公開予定 渋谷東急他 全国松竹東急系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給


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