あなたのために

2000/11/24 FOX試写室
スーパーで赤ん坊を生んだ17歳のシングルマザー。
主演はナタリー・ポートマン。by K. Hattori


 アメリカでベストセラーになったビリー・レッツの小説を、ナタリー・ポートマン主演で映画化した作品。監督はテレビ業界出身のマット・ウィリアムズ。共演はアシュレイ・ジャド、ストッカード・チャニング、ジョーン・キューザックなど一流揃い。地味な話のようだけどストーリーは波瀾万丈で、作りもじつに丁寧。これが単館系の公開というのは、ちょっともったいないぐらいだ。世間知らずで夢見がちな少女が、世間の冷たい風と人間の温かさに触れながら自立し成長して行く様子は観ていてじつに気持ちいい。出演者もハリウッドの大作映画に負けない顔ぶれなのだから、がんばればどこかのチェーンにかけられる映画だと思う。もっともそうした背伸びをせず、作品の自力だけで全国のシネコンなどの配給して行く作戦なんだと思いますけど。

 17歳のノヴァリー・ネイションは、ミュージシャン志望のボーイフレンドと一緒にオンボロ自動車で旅に出る。テネシーよさらば。目指すは夢のカリフォルニアだ。だがお腹の大きなノヴァリーを重荷と感じたボーイフレンドは、オクラホマの田舎町で彼女を置き去りにする。途方に暮れたノヴァリーは、大型スーパーのウォルマートで寝起きするホームレス生活。誰にも見つかることなく数週間もそんな生活をしていたが、ある晩とうとう陣痛が始まった。破水してパニックに陥る彼女は、真っ暗なウォルマートの中で赤ん坊を産み落とす。

 舞台がアメリカ南部であればこそ成立する話だろう。アメリカ特有のよそ者に対する寛容さと、全員が顔見知りの小さな町が持っている家庭的な雰囲気。ノヴァリーは幼い頃に両親と別れて天涯孤独、10代で妊娠したが頼みの男は逃亡、あげくの果てはたったひとりのホームレスという、それだけ取り出せば悲惨でお先真っ暗な生活だ。しかし舞台になっている南部の人なつっこさと、ノヴァリー本人の楽天的性格が、こんな境遇にもあまり暗さを感じさせない。ノヴァリーはウォルマートの中で食べ物や衣類を盗んで暮らしているのだが、そのすべてを「ウォルマートへの借金」として几帳面にノートに付けている。つまり彼女は、いつかこの借金を清算するつもりがあるわけだ。先がまったく見えなくても、「なんとかなるさ」と思いこめるだけの強さが彼女にはある。

 子供を抱えたノヴァリーの成長ぶりを、彼女を支えようとする友人たちとの関係や、彼女に秘かに思いを寄せる図書館勤めの青年のエピソードを通して描いている。ただしこの映画、女の自立を支える女たちのネットワークの話と、ヒロインのロマンスの話のどちらも平等に描こうとして、結局はどっち付かずになってしまったようにも思う。これはノヴァリーを囲む女たちの話をメインにして、青年との話はもっと脇に追いやってもよかったと思う。それに別れた恋人のその後も、いちいち追いかける必要ないと思うけどな。ストッカード・チャニングの周囲に、彼女のサポートを受けている別の人たちを数人配置すると、物語にもっと奥行きが出たかもしれない。

(原題:WHERE THE HEART IS)

2001年2月下旬公開予定 シャンテシネ
配給:20世紀フォックス


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