バーティカル・リミット

2000/11/22 SPE試写室
K2登山中の事故でクレバスに閉じこめられた仲間を救え。
アクションは迫力満点だがドラマが弱い。by K. Hattori


 21世紀最初のお正月映画として公開される、山岳アクション映画。ロッククライミング中の事故で父を失ったギャレット兄妹は、そのことで自分たちを責め、仲のよかった兄妹の間にも深い溝ができていた。兄ピーターは登山家としての道を離れて動物写真家になり、妹アニーは逆に父の意志を継ごうと登山にのめり込んでいく。事故から3年後、アメリカの実業家ボーンが編成した大規模なK2登山隊のベースキャンプで、兄妹は久しぶりに再会する。だが翌日、アニーは登頂中に事故に遭い、ボーンらと共に山頂近くのクレバスに閉じこめられてしまう。事故を知ったピーターは、救出チームを編成して妹たちの救助に向かうのだが……。

 監督は『007/ゴールデンアイ』『マスク・オブ・ゾロ』のマーティン・キャンベル。主人公ピーターを演じるのはクリス・オドネル。映画導入部で見せたオドネルの甘い表情は雪山の中でみるみる引き締まり、最後はたくましい山の男に成長している。妹アニーを演じるのは『エンド・オブ・デイズ』のロビン・タニー。重要な役だが、ほとんどクレバスの中なので出番は少ない。K2登山チームを率いる億万長者ボーンを演じるのは、『タイタニック』でも深海宝探しをしていたビル・パクストン。彼とわけありのベテラン登山家にスコット・グレンが扮し、『007/ゴールデンアイ』に出演していたイザベラ・スコルプコが救出チームの紅一点モニクを演じる。配役面では飛び抜けた大スターがいない映画だが、この映画の見せ場は俳優の芝居ではなく、人間の前でくるくると表情を変化させる雪山にある。

 大規模な撮影隊を編成してニュージーランドの山岳地帯でロケ撮影されたという迫力ある映像、爆薬を使って作られた本物の雪崩、それにVFXを組み合わせて、そこが標高8千メートルの山岳地帯だと観客に信じさせてしまうのだから大したもの。突然吹き荒れる嵐の恐怖、ほんの小さな不注意で滑落する危険、垂直に切り立った崖にしがみついてのサバイバル、雪に突き刺された小さなピッケルに数人の命がゆだねられるスリルなど、アクションシーンはどれもうまくできている。

 ただしアクションシーンの背後にある人間ドラマには、かなり生温いところもある。『バーティカル・リミット』とは、地上のルールやモラルが通用しない領域。そこではどんな人間の心も丸裸にされてしまう。互いの個性と欲望が、一歩間違えば死に直結する極限状態の中でぶつかり合う様子を描こうとしているはずなのに、ドラマのポイントになるべきシーンに粘りがなく、観ていても心がかっと熱くなるようなところがほとんどない。これはドラマの解釈の問題もあるだろうし、ひょっとしたら見せ場である雪山のアクションを優先して、芝居部分をかなりカットしているのかもしれない。兄妹の確執が深まらないのは解釈の問題だが、ボーンとウィックの対決が盛り上がらないのは、明らかにエピソードや説明のどこかが不足しているためだと思う。

(原題:Vertical Limit)

2000年12月6日公開 丸の内ルーブル他、全国松竹東急系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 宣伝:トライアル


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