ボディ・ショット

2000/11/10 日本ヘラルド映画試写室
合コンに繰り出した男女8人が見事にはまったドツボ。
健康と安全のため飲み過ぎに注意しよう。by K. Hattori


 僕は最近酒でヘベレケになるということがすっかりなくなったけど、昔は「酔うために酒を飲む」という面がないでもなかった。酒の席での失敗や泥酔しての乱暴狼藉というのは、男も女も一種の武勇伝とされることが多くて、酒の席では何年たってもその話題が出てみんなに大笑いされる。中には運悪く酔ったあげくに事故を起こして重傷を負ったり、他人をぶん殴って大けがさせてしまう人もいる。飲酒運転での人身事故はシャレにならないし、大学の新人歓迎コンパでは、毎年かならず何人かが旧姓アルコール中毒で死んだり救急車で病院に運び込まれたりする。でもこうした不祥事も、無事にやり過ごしてしまえばすべて武勇伝。二日酔いで目を覚ましたら知らない家にいたとか、隣に見知らぬ美女が寝ていたという話は男の勲章であり自慢話だ。(ちなみに僕は酒で自制心を失うことがほとんどく、酔った時の出来事もしっかり覚えている。武勇伝にはまったく縁がない。)

 男女4人ずつのグループで街に飲みに行った若者たちが、翌日になって前日の自分たちの醜態を思い出すという青春映画。映画は三重構造になっている。中心にあるのは、フットボール選手のマイクが一緒に帰った女優のサラをレイプしたか否かというミステリー。この事件が複数の視点から描かれる様子は、黒澤の『羅生門』に影響を受けたものだと思う。同じ出来事を描きながら、当事者ふたりの証言が真っ向から食い違う様子を再現ドラマ風に描くあたりなどそのままだ。このミステリーの周辺に配置されているのが、残り6人が前夜をどのように過ごしたかという個別のエピソード。そこには甘美な思いもあり、苦い体験もあり、二度と思い出したくないような出来事と、後々まで語り伝えられる武勇伝とがある。こうしたエピソードの周囲を取り巻き、この映画をユニークなものにしているのは、登場人物たちがカメラ視線で語るインタビュー風の独白。恋愛やセックスについての赤裸々な言葉が、そこにはあふれている。

 登場人物のひとりひとりはすごく個性的に見えながら、語られている恋愛やセックスについての考えはどれも似たり寄ったりなのは、それだけ彼らがこの問題を切実に考えているという証拠かもしれない。セックスは楽しい。セックスと恋愛を切り離して、セックスだけを楽しみたいこともある。セックスには相性があって、自分にピッタリの相手とめぐり逢えればラッキー。でもそれは恋愛とはちょっと違う。本当にほしいのはセックスじゃない。本当は誰かに愛されたい。セックスは愛の乾きを癒してくれない。セックスすることで、余計に自分の孤独を感じてしまうこともある。誰もが知っていることでありながら、恋愛映画の中ではタブーになっているセックスと恋愛感情の関係が、すべて台詞で明らかになるあっけなさ。この不作法さが、この映画の新しさかもしれない。

 酒とセックスと恋愛についての映画だが、酒について描かれている分量ほどには、酒について語られていないのが少々物足りない。酔った勢いはどこまでOKなの?

(原題:BODY SHOTS)


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