ひばりのすべて

2000/10/31 Bunkamuraシアターコクーン
(東京国際映画祭/ニッポン・シネマ・クラシック)
美空ひばりの芸能生活25周年記念コンサートの記録映画。
一目でわかるやらせが多いけど、まぁいいか。by K. Hattori


 昭和46年(1971年)に製作された、美空ひばり芸能生活25周年記念コンサートの記録映画。美空ひばりは「国民的な歌手」「歌謡曲の女王」として知られているが、同時に生涯に158本もの映画に出演した銀幕のスターでもあった。昭和32年から36年までの5年間だけで、映画出演本数が63本もあると言うからビックリ。この頃の彼女は、1か月に1本以上のペースで映画に出ていたのだ。この映画はそんな美空ひばりにとって、最後の映画出演作だという。監督は『ジャズ娘乾杯』『嵐を呼ぶ男』『踊りたい夜』など、映画会社を渡り歩いて音楽映画やミュージカル、アクション映画などを量産していた井上梅次。新宿コマの舞台で「東京キッド」を歌うオープニングタイトルが終わると、時間は3ヶ月ほど前にさかのぼり、コンサートの準備や制作発表、レコーディング、誕生パーティーなど、公私に渡る美空ひばりの姿が克明に記録されている。

 ドキュメンタリー映画と言いながら、この映画のあちこちに作為的な演出があることはすぐにわかる。つまり「やらせ演出」があちこちにあるのだ。例えばステージで歌う美空ひばりに客席のファンが「ひばりちゃん!」「日本一!」などと声をかける場面は、客席をクローズアップすると丁度その時そこにいた客が声をかけるというタイミングのよさ。ひばりが胸のボタンホールに刺していた花を客席に投げると、ファンがそれを奪い合う様子をカメラが抜群のタイミングで撮影する。しかも客席に映画用の照明などないはずなのに、これらの場面はじつにきれいに撮れている。もちろんこれらの場面はコンサートの最中にリアルタイムに撮影されたわけではなく、客席のアップだけは別の機会に抜き撮りされているのだ。つまりここはお芝居。でもこの映画は、そんなお芝居をまったく隠そうとしない。テレビ出演している美空ひばりを、テレビで見ているごく普通の一家の様子が登場するが、テレビ画面は当然はめ込み合成だし、この一家もどこかの役者だろう。ステージの上の照明を落とし、美空ひばりにスポットライトが当たっているシーンがある。ここでは彼女のアップになると、ステージの上にまったく存在しないはずのライトが突然いくつも現れる。これはアップの絵だけを別のセッティングで撮っているのだ。でもそんなこと、この映画の中では一切お構いなし。

 この映画の狙いは「美空ひばりのありのままの姿をそのまま見せる」ものではない。映画館でしか美空ひばりを観たことがない人に、彼女の25年記念コンサートを体験させることと、普段はあまり見られない彼女の私生活の雰囲気をちょっぴり覗かせてあげるのが目的。この映画の中では、登場人物たちがすべて普段の本人たちを“演じている”のです。ドキュメンタリーを「ありのまま」「そのまま」だと考えると、これはかなりの逸脱。でも美空ひばりのファンにとっては、これでも一向に構わないし、その方がスマートな映画に仕上がるし劇的効果も生まれて満足できるということなのだろう。


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