初恋のきた道

2000/10/27 SPE試写室
田舎娘の純情を描くチャン・イーモウ監督作。
チャン・ツィイーの笑顔に100点。by K. Hattori


 チャン・ツィイーがとにかく可愛い。それがこの映画の魅力の90%ぐらいを占めていると思う。『グリーン・デスティニー』の彼女も印象的だったけど、この映画の彼女はその比じゃない。「第2のコン・リー」などと言われているが、それはチャン・イーモウ監督が新人を主役で大抜擢したから比較されることで、チャン・ツィイーの方がずっと現代的な顔立ちです。コン・リーがどこかで大地に根ざした母性的なものを感じさせるのに対し、チャン・ツィイーは都会的で育ちのいいお嬢さんという感じ。これはやっぱり、時代の差なんだと思う。中国の山口百恵と形容されたコン・リーは、経済発展の中で花開いた大輪の花。チャン・ツィイーは出自に土の匂いが感じられない。この『初恋のきた道』は40年前の中国農村が舞台。それでも物語が泥臭くならないのは、チャン・ツィイーの個性によるところが大きいと思う。これがコン・リーだったら、もっとベタベタした、いかにも「田舎の素朴な少女の素朴で不器用な初恋物語」になっちゃう。でもチャン・ツィイーだと、舞台は農村でも、きちんと今に通じる青春ドラマが出来上がる。

 父親の葬儀のため故郷の村に戻ってきた息子が、村では伝説となっている父親と母親の馴れ初めを紹介するという構成。現代をモノクロで描き、過去の思い出話をカラーで描いている。町から教師としてやってきた二十歳の青年ルオを見て、18歳のチャオは一目惚れ。彼に食べてもらおうと学校の建設現場まで毎日せっせと昼食を運び、学校ができてからは教科書を朗読するルオの声を聞くため毎日学校まで通う。でもなかなか声がかけられない。学校帰りに待ち伏せすること数回、もしくは数十回。ようやくルオと言葉を交わすことができたチャオは、彼を翌日の食事に誘う。だがふたりの気持ちが初めて通じ合ったと思った直後、ルオは村を離れることになる。

 ルオの姿を遠巻きに眺めるチャオの可愛らしさ。子供たちと歩く彼を、どこまでもどこまでも追い掛けて、ただそれだけで幸せな気持ちが胸一杯に広がってしまうような恋のときめき。この前半があるから、ルオが去る場面が悲しくて切なくて仕方がない。ルオを乗せた馬車を追って、幾度も丘の斜面を全力疾走するチャオ。手にはルオに食べてもらおうと心を込めて作った餃子を入れた茶碗を持っている。遠ざかる馬車。転倒するチャオ。草のうえに散乱した茶碗のかけらと餃子。この場面は泣ける。この時ルオに貰った髪飾りをなくしたチャオが、何日も何日もそれを探して歩くのも泣ける。ようやく捜し当てた髪飾りを頭に付け、鏡の前で淋しそうに笑みを作る場面も涙がこぼれそうになる。割れた茶碗を、母親がわざわざ修理してやるところも素晴らしい。

 映画の序盤に『タイタニック』の中国版ポスターが登場。船が転覆しなくても、どちらかが死んでしまわなくても、描かれている気持ちが本当なら、観客はその恋心の切なさに共感し、感動して涙を流すことができる。上映時間は『タイタニック』の半分以下ですけどね。

(原題:我的父親母親 The Road Home)


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