オーロラの彼方へ

2000/10/16 GAGA試写室
30年前に死んだ父親と無線で話ができたなら……。
サスペンスと感動満載の異色ファンタジー。by K. Hattori


 太陽の活動が活発化した影響で、ニューヨークに数十年ぶりのオーロラが現れた夜、警官のジョンは古い無線機でひとりの男と話をする。なんとそれは、30年前に死んだ彼の父親だった。消防士だったジョンの父は、人命救助のために危険に飛び込み、30年前の明日、そこで殉職してしまったのだ。無線機の向こう側にいる父は、そんな自分の運命を知らない。ジョンは何とか父を助けようとするのだが、父は悪ふざけだと思って相手にしない。そしていよいよ、運命の日がやってくる……。

 オーロラと1台の無線機から始まる、一風変わったタイムトラベル物語。主演はデニス・クエイドとジム・カヴィーゼル。映画のあらすじを見ると、息子であるカヴィーゼルの視点から物語が進行して行くようにも思えるが、映画の中身は父と子で見せ場を半分ずつ分け合っている。あまり内容について書くとこれから映画を見る観客の楽しみを奪ってしまうが、なかなかひねりのきいた脚本で、僕は最後の最後まで結末が読めなかった。「なるほど、この手でいくのかな」と先行きを予想すると、肝心なところでスルリとその予想を覆して別のことをやる。それも1度や2度ではない。幾度も「その手で来たか!」という驚きを味わえる映画です。非常にユニーク。

 未来と過去の間で言葉だけが行き来するというアイデアと、過去に起きた変化が未来に影響を及ぼし、それが過去に働きかけた未来の出来事も変えてしまうというタイムパラドックスを組み合わせ、きちんと絵として見せているのはうまい。なぜそんなことが起きるのかを理屈で説明されるより、その場で起きていることを絵で見せられてしまった方が納得できてしまう。この手のタイムトラベルものは筋立てが理屈っぽくなりがちだが、この映画はそのあたりをうまく整理して、観客を混乱させるところがまったくない。それでいて観客をうならせるようなアイデアが次々に出てくるのだから驚く。アイデアのひとつひとつは別の映画に登場していたものもあるが、それをどう組み合わせてどのタイミングで観客に提示するかという間合いの取り方がうまいのです。

 映画はまったくの白紙状態から観始めるのが理想なのかもしれないけれど、この映画を観る人はあらかじめ、デニス・クエイド扮する父親が殉職することを知っている。そしておそらく、未来の息子の働きかけで決定的な危機が回避されるであろうことを予想する。映画はそんな観客の予備知識を前提に始まり、同時に観客の予想を次々裏切っていく。まったく矛盾して見えるふたつの出来事が、1本の映画の中に共存している不思議。

 30年の歳月を隔てた2つの空間を、美術や衣装の変化、配役のチェンジや特殊メイク、全体的な色調の違いなどで、明確に表現しているのは見事。基本テーマは父と子、母と子、夫婦といった、家族の絆と愛情。普遍的なテーマなので、誰でも素直に感情移入できると思う。泣ける系統の映画ではないが、物語を最後まで観終えたあとに、爽やかな感動が約束されている作品です。

(原題:FREQUENCY)


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