ホワット・ライズ・ビニース

2000/10/03 FOX試写室
H・フォードとM・ファイファー主演のヒッチコック風スリラー。
映画の狙いと予告編がまるで合ってないぞ。by K. Hattori


 ハリソン・フォードとミシェル・ファイファー主演のサスペンス・スリラー。娘が大学の寮に入ったことで、夫婦二人きりの生活になったスペンサー夫妻。その直後から、妻のクレアは家の内外にただならぬ気配を感じ始める。3週間前に隣に越してきた夫婦の激しい夫婦ゲンカ。何かに怯え、泣きじゃくっている隣家の妻。やげて彼女は突然姿を消してしまう。隣家の夫の不審な行動。ひょっとして彼女は、彼に殺されているのではないかという疑惑。この頃から、クレアは家の中にも次々と異変が起きていることに気づく。これは殺された女性からのメッセージなのだろうか? 夫が心配する中、彼女はこの異変の裏にある真相を探ろうとするのだが……。

 なかなかよくできたヒッチコック風のサスペンス。前半は『裏窓』で、中盤は『レベッカ』、クライマックスには『サイコ』があって、最後は何だろう……。とにかくいろんな作品を連想させる。監督のロバート・ゼメギス自身、この映画を演出するにあたっては大いにヒッチコックを意識しているらしい。リメイク版『サイコ』より、この映画の方がよほどヒッチコックをうまく消化していると思う。ヒッチコックを越えてはいないけれど、模倣に陥ることなく、サスペンス演出の味付けに使っている。時々露骨にヒッチコック映画の引用のような場面を入れるのは(例えばシャワーカーテン)、「参考にしたのはもちろんヒッチコックですとも」という観客へのメッセージのようなものです。

 隣人への疑惑、家の中の異変、超常現象、やがてヒロインが知る恐るべき真実……、という流れが物語の骨子ですが、この映画は劇場予告編でかなりネタバラしをしていて興がそがれてしまう。ヒロインは夫の行状について何も知らず、何も気づいていないのだから、観客をそれと同じ立場でこの映画に参加させてほしい。ヒロインが意外な事実を知った時、予告編を観ている人はまったく驚けないだろう。宣伝用のコピーも同罪。これでは最初から、観客の関心がヒロインの夫に集まってしまう。夫を演じているのはハリソン・フォードだから、観客がある程度は彼の動向を観ているのは当然。でも物語の視点は常にヒロインの側にあるのだから、余計な情報で観客の目をフォード側に引っ張るのはよくないと思う。

 『フォレスト・ガンプ/一期一会』でデジタル合成などのVFX技術を巧みにドラマ作りの中に取り込んだゼメギス監督は、今回の映画でも要所にデジタル技術を持ち込み、幻想とも現実ともつかないミステリアスな空間を作り出す。ハリソン・フォードは彼には珍しく「弱い男」を演じているが、これはやはり苦しい。彼はずっと精神的にタフな男を演じてきた俳優だから、今回のノーマンのようにコンプレックスを抱えていたり、精神的に脆かったりする役を演じても似合わない。ただし彼がそうした弱みを見せるのは終盤のわずかな時間に過ぎないので、観客はそれをあまり気にしないと思う。全体によくできた映画。ただし2時間10分はちょっと長い。

(原題:WHAT LIES BENEATH)


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