この胸のときめき

2000/09/30 シャンテ・シネ
デビッド・ドゥカブニーとミニー・ドライバー主演のラブ・コメディ。
日本ではこれを感動系で売ろうとしている。by K. Hattori


 人気テレビ番組「X-ファイル」の主演スター、デビッド・ドゥカブニーが、ミニー・ドライバーと共演したロマンティック・コメディ。しかし日本でのこの映画の売り方はちょっと苦しい。主演のドゥカブニーは「X-ファイル」のファンには顔と名前が知れ渡っているものの、一般の映画ファンにはいまひとつ浸透していない。ミニー・ドライバーは映画ファンによく知られている実力派女優だが、決して美人とは言えず、彼女の人気で劇場に人が詰めかけるとは思えない。加えて日本ではラブコメやロマコメの人気に最近陰りが見えており、デート映画に求める観客の嗜好は「感動的で泣ける映画」にシフトしている。この映画はコメディ映画だが、日本ではそれを無理して「感動的なラブストーリー」路線で売ろうとしている。でもミニー・ドライバー主演の感動ラブ・ストーリーなんて、どれだけの人が観たいと思うんだろう。映画の出来が悪くないだけに、がんばって売ろうとしている配給会社の宣伝マンには同情する。でもこれは、かなり辛い戦略だと思うなぁ……。

 試写でも一度観ている映画だが、今回はたまたま「X-ファイル」のデビッド・ドゥカブニー大好きという大勢の女性たちと一緒に映画を観ることになった。『Return to Me』という原題を『この胸のときめき』にしたことについては、すごく評判が悪い。でもしょうがないよ、これは。誰もディーン・マーティンの『Return to Me』なんて知らないんだし、そのままカタカナにするよりは『この胸のときめき』の方が10倍はまし。邦題は映画の内容にも合ってると思う。(ガーシュインの曲から取った『Sweet and Lowdown』という映画のタイトルが、『ギター弾きの恋』になってしまう世の中です。)ラブ・ストーリー系で売ろうとしているのだから、このぐらいくさいタイトルでも構わないんじゃないだろうか。

 ミニー・ドライバーは女性陣の評判が悪かったのですが、僕はこれを適役だと思ってます。この映画は、本当なら好みのタイプでも何でもなかったはずの相手に、なぜか恋してしまう不思議を描いたラブ・コメディです。一応は心臓移植云々という説明もありますが、それはあまり本質的なことではないと思う。主人公のボブは、美人でインテリの奥さんを事故で亡くし、それから1年後にさして美人でもないイタリア料理店のウェイトレスに心を惹かれるようになる。彼女は本来なら、ボブの好みのタイプではまったくないはずなのです。だから彼の友人も、ボブの新しい恋を横目で見ながらあまり面白そうな顔をしていない。でも意外なときに意外な人を好きになってしまうことがあるから、恋は不思議だし面白いのです。ボブは奥さんを亡くして、たぶん自分はもう二度と恋をしないと思っていたに違いない。その彼が再び恋をすることができたときの喜び。恋の対象が奥さんとは似ても似つかぬチンチクリンのミニー・ドライバーだからこそ、この新しい恋人が亡くなった奥さんの身代わりではなく、新しい本物の恋であることがわかります。

(原題:Return to Me)


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