宮廷料理人ヴァテール

2000/09/28 日本ヘラルド映画試写室
17世紀のフランスで本当に開催された大宴会を映画で再現。
これは晩餐会というよりまるでサーカスだ。by K. Hattori


 太陽王ルイ14世の統治下で、17世紀のフランス王国は空前の繁栄を遂げた。30年戦争の勇者でありながらフロンドの乱に加わって王の不興を買った名門貴族コンデ公は、王室内での政治力を回復するため国王の歓心を買おうとする。折しもフランスはオランダとの外交関係が悪化。いざ戦争となれば、名将軍の誉れ高いコンデ公とその軍勢がフランスに必要なのは目に見えている。このタイミングを逃せば、コンデ公が宮廷に復帰するチャンスは永久に訪れないだろう。そんなコンデ公側の事情を見透かすように、ルイは供の貴族や取り巻きを連れて、3日間をコンデ公の屋敷で過ごすと言い出す。コンデ公はルイを丁重にもてなすため、3日間に渡る大宴会を主催。その費用5万エキュは、当時のフランス税収の140分の1に相当する大金だという。この大宴会の陣頭指揮を執ったのが、伝説の料理人ヴァテールだ。

 主人公ヴァテールは実在の人物で、この映画に描かれた大宴会は1671年4月22日から24日にかけて行われた。ヴァテールは料理人であると同時に、この宴会で催されるアトラクションや演出まですべてを取り仕切る総監督。タイトルには『料理人』と冠されているが、じつは豪華絢爛な宮廷料理はあまり登場せず、描かれているのは厨房であわただしく動き回る大勢の料理人や山のように積まれた食材の数々がほとんど。印象に残る料理と言えば、菓子職人だったヴァテールの作る繊細な砂糖細工の花ぐらいだろう。ルイ14世治世下のフランス料理は、世界各国の食材(ナシだけで500種類!)や料理技法(インド風のランタン!)、テーブルマナーなどが取り入れられた変革期にあたり、ヴァテールもそうした変革期の料理界を牽引するリーダーのひとりだった。変革や改革の中ではスタイルが次々に変化するため、そこには洗練の入り込む余地がないのかもしれない。この映画があまり料理をクローズアップしないのは、そこに現代のフランス料理ほどのエレガントさがないからだろう。意外と野趣あふれる料理だったりするのだ。

 映画は宴会初日の準備風景から物語に入り込んでいく。その前のごたごたした政治状況やコンデ公の思惑などは、映画開始前にタイトルで処理される。このタイトルは日本のオリジナルなんだろうか? 確かにタイトルがあった方がわかりやすいし、物語の核心にすぐ入り込める。宴会開始直前の慌ただしさで映画が始まり、宴会が終わった閑散とした場で映画が終わるという構成もいい。ただしドラマのクライマックスとなる宴会2日目の夜は、エピソードの組立が悪いのか演出が悪いのか、登場人物たちの葛藤にヒリヒリするような緊張感が感じられなかった。ここで盛り上げておかないと、最終日の朝のヴァテールの行動が、どうもよくわからなくなってしまう。

 ヴァテールを演じたのはジェラール・ドパルデュー。平民出身の元菓子職人が、努力と才能で宮廷料理人の頂点に立ったという雰囲気が良く出ている。監督はローランド・ジョフィ。仏英合作の英語劇だ。

(原題:Vatel)


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