SWING MAN

2000/09/22 シネカノン試写室
個性的な脇役として知られる木下ほうかの初主演作。
主人公の設定が木下ほうか本人を連想させる。by K. Hattori


 『岸和田少年愚連隊』で不良高校生を演じ、『のど自慢』では審査員に賄賂を使おうとして断られる出場者を演じ、『絆』では小心な小料理屋の主人を演じていた木下ほうか。映画を観ている時この人の顔がちょっと出てくると、それだけで観客の相好を崩させてしまう不思議な魅力の持ち主。『暗闇のレクイエム』におけるヤクザの幹部も、『絵里に首ったけ』のライバル校のラグビー部員も、この人だからこそあの奇妙な味が出る。これはもはや演技力云々ではない。どんなに演技力のある俳優が同じことをやろうとしても、現在の木下ほうかが占めている役回りを引き受けることはできないだろう。そんな彼が初プロデュース・初主演したのが、この『SWING MAN』。「木下ほうか主演でから当然コメディだろう」というこちらの思い込みを、いきなり裏切るシリアスなミステリー。この映画は、彼の演技力の幅を感じさせる面白い作品に仕上がっている。

 木下ほうか本人を思わせるVシネ俳優・木田ほづみが、ある日突然、何者かに金属バットでめった打ちにされる。犯人はそのまま逃走して行方しれず。退院した木田は事件の目撃者を訪ね歩きながら、自分を殴った男が誰なのかを独自に調べ始める。「誰が何のために木田を殴ったのか?」というミステリーが物語の推進役だが、主人公を追い詰めていくのはそれだけではない。はかどらない警察の捜査。目の前からあっという間に消えてしまう仕事。ギクシャクし始める恋人との関係。目撃者たちの曖昧な証言。途切れた記憶の向こう側から浮かび上がってくる犯人の顔は、じつに意外なものだ。

 映画を観ている人は、主人公・木田ほづみと木下ほうかの二重性を常に意識している。木田の部屋には木下ほうかが出演した映画のビデオが置かれ、ポスターやチラシが貼られている。本人曰く「キムタクとは一緒に仕事したことないけど、役所広司さんとは共演したことあるよ」なのだ。木田の親友に北岡一貴という男がいるのだが、北岡を演じているのは北村一輝。「北岡=北村」という存在が、木田と木下の二重性をさらに強調する。映画の中の木田ほづみは、まるで木下ほうかのドッペルゲンガーではないか。こうした二重性を映画開始から観客が常に意識しているから、映画後半の展開もわりとスンナリ受け入れられてしまったりする。

 映画導入部で、麿赤児、村上淳、加勢大周などが平気な顔して街の中の通行人をやっている不思議さ。これだけでもう、この映画がただごとではないことがわかる。他にも映画でおなじみの顔がぞろぞろ登場。物語自体は暗くて陰惨な雰囲気だが、それがこうしたカメオ出演の俳優たちで中和されている。アルトマンが『ザ・プレイヤー』で使ったのと同じテクニックです。日本映画を見慣れている人ならニヤリとすることでしょう。

 木下ほうかのシリアス演技は『絆』でも観ることができるが、それとはまた別の面が見られる作品。この人を「個性的な脇役」だけにしておくのはもったいないよ。


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