時の支配者

2000/09/08 TCC試写室
人気コミック作家メビウスがデザインと原画を担当したアニメ映画。
20年前の作品だが、イメージは今も新鮮。by K. Hattori


 『ファンタスティック・プラネット』のルネ・ラルー監督が、人気コミック作家のメビウスと組んで作った長編アニメーション映画。今回が劇場では日本初公開ということだが、僕はこの映画を17,8年前の高校時代にスクリーンで観ている。竹橋にある科学技術館のホールでこの映画が上映された際、友人の女の子と一緒に観に行った。それがフランス語の原語版だったのか、英語吹替版の『TIME MASTER』だったのかは記憶に定かではない。僕はこの映画に惚れ込んで、一種のカルチャーショックを受けた。一番ショッキングだったのは、メビウスのデザインです。中間色を多用した色彩やリアルな人物デッサンは、それまでの日本のアニメにはまったくないものだった。その後この映画はビデオでも発売され、僕は大枚はたいてそのビデオを入手したのだ。ビデオというのは買ってもそう見ないものなので、2回か3回見た程度。ビデオがフランス語版だったか英語版だったかも、今ではまったく覚えていない。なにしろ大昔の話です。

 この映画がなぜ各地での試写会やホール上映だけで終わり日本で劇場公開されなかったのか、その理由はよくわからない。しかしこの映画を観て衝撃を受けた人は多い。日本のコミック作家やアニメ作家にも、確実に影響を与えている。例えば大友克洋。彼のキャラクターを使ってキヤノンのカメラのCMを作った際、その色彩感覚は明らかに『時の支配者』に似たものに仕上がっていた。大友克洋はもともとメビウスのファンだったから、『時の支配者』も観ていたのだと思う。後に映画化された『AKIRA』では、キヤノンのCMの時ほど『時の支配者』の影響は感じられない。これはたぶん彼なりに、メビウスのタッチを消化してしまった結果だと思う。

 今回久しぶりの対面となった『時の支配者』だが、アニメ技術の稚拙さはさすがに20年という時間の隔たりを感じさせるものの、そこに展開するイメージは今でも観る者を驚かせるに十分だ。特に色彩に関しては、未だにこの映画を超えるアニメを観たことがない。(僕のアニメ経験は、非常に貧しいものであることを告白しておく必要もあるけど。)メビウスの絵が、そのままちゃんと動いているだけでもすごい。ジャファールとベルが泳ぐシーンで観られるデッサン力の確かさにはびっくりするし、同じ星の場面で、ハスの花から無数の妖精たちが飛び出す場面も素晴らしい。こうしたリアリズムと同時に、ベルディド星にいる奇妙な動物たちや、人間の脳を食うという巨大なスズメバチなどのデザインには、現実を超えたファンタジーの匂いがある。さらにジャファールの宇宙船、革命軍の戦艦などのメカデザインも面白い。

 話そのものはどうでもいい。最後のオチなんて、今回何度目かに観ても「なんじゃそりゃ!」と思うようなもの。マトン王子とベルの関係も、ちょっとわかりにくくて混乱する。ふたりは兄妹か何からしいが、映画の中には説明がない。何にせよ、この映画はすごいぞ。僕は一気に高校生の時代に戻ってしまいました。

(原題:LES MAITRES DU TEMPS)


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