漂流街

2000/09/06 東宝第1試写室
馳星周の小説を三池崇史が映画化したらこうなってしまった。
これが東宝洋画系で全国公開。すごい。by K. Hattori


 映画『不夜城』の原作者でもある馳星周の同名小説を、『オーディション』で男たちをインポにし、『DEAD OR ALIVE/犯罪者』のラストシーンで観客に座りションベンちびらせた、あの三池崇史監督が映画化。映画とは嘘である。映画とはスクリーンに映し出されたまやかしである。子供にでもわかりきったそんな嘘やまやかしを、作り手と観客が一緒になって楽しむ。その共犯関係の中に、この映画『漂流街』の楽しみがある。

 映画の導入部には、不法滞在で強制送還されそうになっている恋人を奪い返すため、入管のバスを主人公の男が襲う場面がある。画面には「埼玉」というテロップが出るのだが、風景はどう見てもアメリカの砂漠地帯。見渡す限りの荒野に一本道の世界だ。でもそれに「埼玉」というテロップを付けて、日本語の看板を1つか2つ立てて、日本のパトカーを走らせれば、もう映画の中は埼玉なのだと主張する強引さ。この強引さを「よくやるわい」と許せるか否かで、この映画を楽しめるかどうかが決まるのだ。それは場面が歌舞伎町に変わるところも同じだし、歌舞伎町の中で行われている闘鶏試合の馬鹿馬鹿しさでも同じ。すべては作り事。すべては絵空事。その絵空事を絵空事のまま受け入れ楽しめるかどうかは、すべて受け手の寛容さにゆだねられている。もちろん作り手側は「これぐらいはOKだろう」と、確信を持ってこの映画を作っているに違いないのだが……。

 物語の舞台が歌舞伎町になってからは、二重国籍者のアイデンティティ、海外への脱出願望、親に捨てられた混血の孤児、日本のヤクザと中国人マフィアの対立と小競り合い、ヤクザ組織内部での下克上、日本の中にある外国人コミュニティなど、三池崇史的な世界が一気に花開く。この映画に近いのは、中国残留孤児二世たちの暴力集団を描いた『日本黒社会/LEY LINES』だろう。同じテーマは『DEAD OR ALIVE/犯罪者』の中国マフィアにそのまま流れ込み、さらに形を変えて『漂流街』にも引き継がれているのだ。中国残留孤児が、ブラジルの日系人になっただけ。『日本黒社会/LEY LINES』のラストシーンと、『漂流街』のラストシーンの何と似ていることか。今回の映画は三池監督の作品としてはかなり大作の部類だが、やっていることはいつもと変わらない。

 キャスティングはかなりの大冒険。映画のスタイルもかなりユニークだ。原作がベストセラーとはいえ、こんな映画を東宝洋画系で全国公開してしまって大丈夫なのか。何しろ主人公を演じるTEAHという男は、演技素人のまったくの新人。他に香港からミッシェル・リーとテレンス・インを呼び、悪役には歌手の及川光博と吉川晃司、他には柄本明や麿赤児、大杉漣といった顔ぶれ。脇役はともかく、主役クラスは日本映画の顔ではまるでないし、かといってVシネ的ですらない。それがすべて中国語やポルトガル語でしゃべる。字幕率は8割だ。これが一般観客に支持されると、日本映画に大きな風穴があくような気がする。三池ファンならずとも必見。


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