ミュージック・フロム・アナザー・ルーム

2000/08/30 松竹試写室
ジュード・ロウ主演のファンタジックなラブストーリー。
欠点だらけの映画なのに、好き。by K. Hattori


 『リプリー』で一般映画ファンにも名前と顔が知れ渡ったジュード・ロウ主演の、ファンタジックなラブ・ストーリー。5歳の時、父親の知人スワン家で偶然お産に立ち会うことになったダニー。無事生まれた赤ん坊はアンナと名付けられるが、ダニーは彼女を一目見て「将来この子と結婚する!」と宣言する。それから25年。父長いヨーロッパ暮らしからアメリカに戻ってきたダニーは、たまたま道を尋ねた家が、幼い頃に父と訪れたスワン家であることに気づいてびっくりする。そこには美しく成長したアンナの姿もあった……。

 決してデキのいい映画ではないのに、なぜかすべてが許せてしまうような、不思議な魅力を持った映画です。各エピソードのつながり具合や、登場人物たちの関係など、どうにも大雑把に感じられる部分が多いのですが、その大雑把さも含めてこの映画の魅力なんだと思う。物語の中心にあるのはダニーとアンナの恋の行方ですが、映画はしばしばその本線から脱線してしまう。脱線と言うより、脱輪状態と表現した方が正しいかもしれない。車体はレールの上に乗っている。でも車輪はレールから離れている。この状態が長く続けば、列車は脱線転覆の大惨事。ところがこの映画は脱輪状態がしばらく続くと、いつの間にか車輪はもとの状態に戻って正常運転になる。いつ脱輪したのか、列車の乗客たる観客にはまったくわからない。でも車輪がレールに戻って正常な状態を回復した瞬間、「今までの運転はヘンだったようだ」とわかってドキドキする。この映画はそれを何度も繰り返す。

 この映画がしばしば脱輪してしまうのは、ダニーとアンナの恋の物語が脇のキャラクターのエピソードに遮られて、しばしば中断してしまうためだろう。しかも奇妙なことに、中断しても誰も困らない。例えばダニーがアンナの姉ニーナをダンスに連れ出す場面から始まる一連のエピソードは、どう考えても奇妙な展開です。ダニーはなぜダンスフロアでトラブルに巻き込まれなければならなかったのか、その説明がまったくない。ただの思いつきでこんなエピソードを考えるにしたって、もう少し裏の事情がわかる説明が普通はありそうなものです。でもここにはそれが一切ない。

 そもそもこの映画には、ありとあらゆることに関して説明がなさ過ぎです。ダニーはなぜモザイク職人になろうとしたのか。アンナと恋人エリックの馴れ初め。スワン家の母グレースの病名。長男夫婦の家庭問題。これらはまったく事情がわからないけれど、わからなくてもまったく困らない映画になっている。魅力がありそうなのにまったく注目されない登場人物たちが大勢いることも、この映画の奇妙さです。例えばスワン家の父親や、フェミニストの姉、ダニーの職人仲間など、エピソードにからめていけば面白そうな人間たちがそのまま放置されている。まったく奇妙でしかたがない。

 映画としての完成度は高くない。でも僕はなぜかこの映画が好きになってしまった。それが一番奇妙かも。

(原題:Music From Another Room)


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