ラヴァーズ

2000/08/29 メディアボックス試写室
ジャン=マルク・バールの監督デビュー作は《ドグマ95》作品。
エロディ・ブシェーズ主演のラブストーリー。by K. Hattori


 『グラン・ブルー』で伝説の素潜りチャンピオンを演じたジャン=マルク・バールの初監督作品。ラース・フォン・トリアーやトマス・ヴィンターベアが提唱する《ドグマ95》5本目の認定作品だが、画面サイズはビスタになっている。監督のバールがひとりで脚本・製作・撮影を兼務。画面を観ると一目瞭然だが、これはビデオ撮影したものをキネコでフィルムに変換したものらしい。ビデオは小型で手持ち撮影が楽だし、光源や光量の変化に柔軟に対応でき、しかもワンシーン・ワンカットの長回し撮影も楽々こなしてしまう。ドグマは最終的な映画の仕上がりを「35ミリ・スタンダード」に規定しているが、撮影時の媒体は問わないらしい。

 当初は「純潔の誓い」を立ててなるべく厳密にルールを守ろうとしていた《ドグマ95》だが、最近は映画を作った本人が「これは《ドグマ95》作品だ」と主張さえすれば、後から正式にドグマ作品として認定されるように手続きが簡略化されているらしい。手持ちカメラで撮影現場にある材料だけを使って同録撮影するというドグマのルールは、ハリウッドの巨大資本に対するアンチテーゼ。日本の低予算インディーズ映画は予算がないという必然から結果として《ドグマ95》に近い作品作りをしているのだから、いっそのこと意図的にドグマのルールに沿って映画作りをして「日本初のドグマ作品」を売りに宣伝することを考えてみればいい。

 『ラヴァーズ』はパリの本屋で働くジャンヌが、ユーゴから来た売れない画家ドラガンと知り合って愛し合うというラブストーリー。彼は不法滞在者であることが発覚し、警察から逃げ回るようになる。警察の目から逃れるため、ジャンヌの部屋で同棲生活を始めるふたり。だが別れは唐突にやってくる。ジャンヌを演じているのは、『日曜日の恋人たち』でジャン=マルク・バールと共演したエロディ・ブシェーズ。少女のような役柄が多い女優ですが、'73年生まれの彼女はこの映画の撮影時にもう26歳だった。そういえば心なしか、おっぱいもたれてきたような気がする……。ドラガン役のセルゲイ・トリフュノヴィチは、実際にユーゴ出身だとか。プレス資料を見る限り、この映画が日本初登場。

 ドグマ作品の必然で、この映画には撮影用のセットというものが存在しない(はずだ)。ジャンヌが働く本屋やアパートも、ユーゴ人たちが集まる酒場も、ドラガンのアトリエも、すべてがロケーション撮影(のはずだ)。アパートの中にある家財道具も、食器も、クローゼットの中の服も、すべて撮影に部屋を提供した住人の生活そのまま(のはず)。しかもそれを手持ちの小型ビデオで撮影しているのだから、画面はまるで素人がふざけて撮ったホームビデオのような生々しさに満ちている。ただし映画としてはそれほど面白いとは思えなかった。目の前の素材をただ淡々と撮影しているだけで、ドラマとしても映像表現としてもダイナミズムが感じられない。これはフィルムでじっくり撮るべき映画だったかも。

(原題:LOVERS)


ホームページ
ホームページへ