BLOOD
THE LAST VAMPIRE

2000/08/23 徳間ホール
セーラー服のバンパイア・ハンターが米軍基地で大暴れ。
アイデアは面白いが今一歩かな。by K. Hattori


 『人狼』とほぼ同じスタッフが作った、吸血鬼をモチーフとしたアニメーション映画。上映時間48分の短編(中編)。全編をデジタル処理し、2Dのキャラクターと3Dの動画をうまくマッチングしている。技術的にはいろいろと観るべき点も多いのだろう。意欲的な実験作としては、まずまずというところか。ただし映画としては物足りないところも多い。話の細部や前提となる設定を省略するのは構わないのだが、セーラー服の女子高生が日本刀でバンパイア(吸血鬼)をぶった斬るというユニークで魅力的なアイデアを、凡庸で手垢の付いた物語や人物配置の中に押し込んでしまったのは残念。

 僕が一番気になったのは、物語の狂言廻しとなるアメリカンスクールの女性保健医に、まったく魅力がなかった点だ。この人物にもう少し観客の感情移入が可能だと、この映画はまったく別の様相を見せただろう。完成した映画に登場する保険医は、余計なところでいらぬお節介を焼き、肝心なところで主人公の足を引っ張る厄介者でしかない。事情を知らぬ人間側の目撃者という彼女の役回りはどうしても必要だから、脚本上での彼女の位置づけはどうせ変わらない。ならばキャラクターのルックスの点で、もう少し観客に好感の持てるものにした方がよかったんじゃないだろうか。小太りでメガネをかけてモタモタ喋るちっちゃなオバサンみたいなこの保険医が、悪い人ではないことぐらいはすぐにわかる。でも彼女に好感を持ち、感情移入するかどうかはまた別だ。僕は映画を観ながら彼女を「うっとうしい奴だ、早く殺されればいいのに」と思っていたから、主人公が彼女を守るために傷ついたりバンパイアの攻撃に対して後手に回ったりするシーンを観ていても歯がゆくてしょうがなかった。

 物語の舞台をなぜ昭和41年にしなければならなかったのかも不鮮明だ。舞台になっているのは横田基地内のアメリカンスクールだから、『人狼』のように当時の世相や風俗を細かく描写することもできない。昭和41年、1966年という時代でなければ描けないものが、はたしてこの映画の中にあるんだろうか。映画の最後に、主人公とバンパイアの死闘という血生臭い暴力と、ベトナム戦争という巨大な暴力を対比させているが、これがこの映画のテーマとどう結びついているのかも不明。もし「戦争」という暴力を主人公の行為を通して相対化したいのなら、狂言廻しである保険医がもっと別の役を演じる必要があると思う。何しろ彼女は、ベトナムに兵士たちを送り出す基地の真ん中で生活しているのだから。

 バンパイア(吸血鬼)については個人的にも少し調べたことがあるのだが、吸血鬼を日本の鬼伝説と結びつけた解釈はユニーク。でもそのユニークさが、あまり物語の中で生かされていないのは残念。たぶん背景になる設定が省略されているのだろうが、東欧の吸血鬼伝承と日本の鬼伝説の接点がどこにあるのか、なぜアメリカンスクールに鬼が出るのかという点について、もう少し何かほのめかしてくれると面白かったかも。


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