グリーン・デスティニー

2000/08/15 SPE試写室
チョウ・ユンファとミシェル・ヨーが共演した武侠片。
スピーディーな立ち回りには大興奮。by K. Hattori


 『アンナと王様』で名実共にハリウッドのスターとなったチョウ・ユンファと、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』でヒロインを演じたミシェル・ヨーが、ハリウッドの巨大資本と技術力を手みやげに、アジア映画界に凱旋逆上陸して作ったのがこの映画。監督は台湾出身で、アメリカで映画を学び、『いつか晴れた日に』や『アイス・ストーム』などの作品ですっかりアメリカ人監督になりきっているアン・リー。アクション監督に『マトリックス』で世界中の度肝を抜いたユエン・ウーピンを招き、善玉悪玉入り乱れて丁々発止の大チャンバラが繰り広げられる武侠片(時代劇)を作り上げた。

 邦題は原題と似ても似つかぬものになっているが、『グリーン・デスティニー』とは劇中に登場する名剣・碧名剣のこと。天下一の剣の名手リー・ムーバイの手にあった碧名剣は、ムーバイが血で血を洗う戦いの世界からの引退を決めたことから、北京にいる友人ティエ氏に献上されることになる。剣の奥義を究めてもはや敵なしのムーバイだったが、彼にとって唯一の心残りは、かつて師匠を毒殺した碧眼弧への復讐をいまだ果たしていないことだ。だがティエ氏に献上された碧名剣が碧眼弧に盗み出されたことから、ムーバイは再び戦いの世界に舞い戻ることになる……。物語は碧名剣の争奪戦を縦糸に、ムーバイの碧眼弧に対する復讐、ムーバイと女同志シューリンのロマンス、長官の娘イェンと碧眼弧の師弟関係、イェンと盗賊の頭ローの恋などをからめてゆく。

 『推手』や『ウェディング・バンケット』で注目されて以来、アン・リーはいつもホームドラマを得意としてきた監督だと思う。この映画はアクション場面の壮絶さについ目を奪われてしまうのだが、アン・リーが得意とする登場人物たちの心理的な葛藤が丁寧に描かれていて、そこで堆積した心理的なカセが活劇シーンで一気に爆発する爽快感がある。特に女性の描き方は秀逸。ミシェル・ヨー演じるシューリンの秘めた思いが観客にきちんと伝わっているからこそ、篭の鳥の生活を嫌がるイェンの気持ちがわかるからこそ、彼女たちのアクションシーンが単なるアクロバティックな見世物にならならず、感情の流れの先にある必然的な行動として理解できるのだ。

 武侠片は香港や台湾では古くからあった映画ジャンルだが、キン・フーが登場した'60年代から'70年代にかけて1度ブームがあり、その後、ツイ・ハークらが'80年代から'90年代はじめに再びブームを起こしている。だがそのブームも最近はすっかり影を潜めていた。そこに登場した『グリーン・デスティニー』は、この10年の武侠片沈滞ムードを一気に吹き飛ばす。最大の見せ場は、映画の中に何度か登場するミシェル・ヨーとチャン・ツィイーの武術対決。『マトリックス』では見せ場になるとスローモーションになりましたが、この映画は基本的にすべてがリアルタイム。目にも留まらぬ早業の応酬は、画面の中で何が行われているのかさっぱりわからないほど素早く、しかも力強い。これは興奮します。

(原題:臥虎藏龍/CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON)


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