コーンウォールの森へ

2000/07/07 松竹試写室
有名な映画プロデューサー、ジェレミー・トーマスの初監督作品。
軽い知的障害を持つ青年が不思議な男に出会う。by K. Hattori


 『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』の製作者として知られる、ジェレミー・トーマスの初監督作品。知的障害を持つ青年が、彼を虐待する継父の手を逃れて成長する物語だ。原作はウォーカー・ハミルトン。邦題になっているコーンウォールは、イギリス南西部に突き出した半島地域。地図の上でブタの横顔のように見える半島がウェールズだとすると、ブタの前足のように見えるのがコーンウォールだ。スコットランドやウェールズがそうであるように、コーンウォールもイギリスの中で独自のケルト文化が残っている地域。18世紀まではケルト語系のコーンウォール語が残っていたし、その痕跡は今でも地域の英語や地名の中に残されている。この映画ではそうしたコーンウォール地方の特色を出すため、音楽はケルト風のメロディになっているし、風景の中に古代ケルトの遺跡が登場したりする。

 主人公ボビーは幼い頃の事故がもとで脳に障害を負い、20代半ばになっても知能は子供のままだ。そんな彼の保護者として、長年彼を守ってきた母親が死んだ。ロンドンの百貨店オーナーだった母親は、その所有権をボビーに残すが、継父のファットは母を失って動揺しているボビーにつけ込んで店を我が物にしようと画策する。書類をボビーの目の前に突きつけ「サインしないと精神病院にぶち込むぞ」と脅すファットは、それでもサインに応じないボビーのペットを取り上げて殺し、「サインに応じないとお前も同じ目に遭うぞ」とサディスティックな本性を露わにする。身の危険を感じてパニックに陥ったボビーは、着の身着のままで家を出る。目指すはコーンウォール。ボビーはそこで、道で車に轢かれた小動物を埋葬して回る不思議な男に出会う。

 全体としては「いい話」なのですが、映画のポイントが絞られていなくてテーマが曖昧になっている。粗筋だけ見るとロードムービーのようですが、ロンドンからコーンウォールへの移動過程でボビーが寝てしまうので(しかも2回も)、ロードムービーに必要な「移動過程」が描かれていない。つまりこれは、ロードムービーではないらしい。この映画の登場人物はほぼ3人に限定されています。主人公ボビー、継父という立場にありながら私利私欲のために彼を虐待するファット、そしてコーンウォールで出会った不思議な男ミスター・サマーズ。ボビーをはさんで、ファットとサマーズが対照的な人物として配置されている。ひとりは本物の継父、ひとりは精神的な父親と言えるだろう。だとすればこの映画のクライマックスは、ボビーがサマーズと共にファットのもとを訪ねる場面になってもよさそうだが、実際にはサマーズがすぐドラマから離れてしまう。

 映画導入部でファットが見せる凶暴さも、単なる脅しなのか本気なのか、僕にはよくわからなかった。映画を最後まで観ると、あれは本気だったのだとわかるのですが、導入部ではそれが不鮮明なので、ボビーが家出するくだりが弱いと思う。いい話なんだけど、それだけかも。

(原題:All The Little Animals)


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