ワンダー・ボーイズ

2000/07/06 東宝東和試写室
新作が発表できない作家がひとりの少年に出会う。
マイケル・ダグラス主演のコメディ。by K. Hattori


 タイトルになっている"Wonder Boy"というのは、日本語訳すれば“天才少年”といった意味。しかしこの映画に登場する文壇のような場所では、"Boy"という言葉がそのまま“少年”を指すとは限らない。日本の政界では60歳過ぎの議員が初登院しても一年生議員とか新人議員と呼ばれる。文壇も似たようなもので、何歳になっても“注目の新人作家”は"Wonder Boy"なのだ。この映画の主人公グラディ・トリップも、そんな新人作家のひとり。いや、正確には「ひとりだった」と言うべきかもしれない。何しろ彼は前作「放火魔の娘」を8年前に発表して注目されて以来、新しい作品をまったく発表していないのだ。大学で文学部教授の地位にある彼は、今や作家とは名ばかりの冴えない男。過去の栄光も今や色あせている。そんな彼が、ひとりの教え子と出会ったことで運命を大きく狂わせていく。

 自分の身辺もまったく整理できず、作品をうまくまとめることができないまま、マリファナを吸って現実逃避している主人公を、マイケル・ダグラスが好演している。だが変わり者の作家という役は『恋愛小説家』のジャック・ニコルソンの印象がまだ強く残っているため、マイケル・ダグラスはちょっと損をしているかもしれない。この映画ではもうひとりの「変わり者の新人作家」として、主人公の教え子ジェームズ・リアを登場させている。演じているのは『サイダーハウス・ルール』のトビー・マグワイア。相変わらず何を考えているのかよくわからない独自の存在感を持つ俳優だが、今回はそのミステリアスな面もちが物語と上手くマッチしていた。マイケル・ダグラス、ロバート・ダウニーJr.、フランシス・マクドーマンドといったベテランの曲者俳優たちに囲まれて、まったく存在感を失わないマグワイアはやはりすごい俳優なのかもしれない。『鬼教師ミセス・ティングル』のケイティ・ホルムズが女学生役で出演しているが、彼女は主演していた『鬼教師〜』よりこちらの映画の方が断然いいと思う。これが新人ケヴィン・ウィリアムスン監督と、ベテラン監督カーティス・ハンソンの監督としての技量の違いなのだろうか。

 いつまでも大人になれない主人公が、教え子を広い世の中に押し出すことで自分も成長するという物語。この人物関係だけを見ると『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』にも似ているが、こちらはぐっとコメディ色が強い。かといって『アメリカン・ビューティ』のようなブラックな笑いはない。登場人物たちは次々起こる事件の中でさんざんジタバタさせられたあげく、みんながそれぞれのハッピーエンドを迎える。

 登場人物たちの人間関係、特に恋愛やセックスにまつわる関係を、やけにあっさり描いているのは演出上の意図だと思う。でもこれだと、特にロバート・ダウニーJr.とトビー・マグワイアの関係がよくわからない。僕がボンヤリしていたのかな。この二人は最初からゲイなんでしたっけ? それが最後に気になってしまった。

(原題:Wonder Boys)


ホームページ
ホームページへ