さくや
妖怪伝

2000/07/06 ワーナー試写室
幕府の密命を受けた公儀妖怪討伐士・榊咲夜の活躍。
松坂慶子が巨大モンスターを熱演! by K. Hattori


 日本映画界で特殊メイクの第一人者として知られる原口智生の監督デビュー作は、化け猫や河童や鬼が登場する妖怪映画。夏番組の定番として、かつては映画興行になくてはならない存在だった妖怪映画が、最新の技術で現代流にリメイクされている。主人公の榊咲夜は17歳の少女だが、公儀お抱えの妖怪討伐士として全国を行脚する身分。岡本綺堂の半七捕物帖などにも書かれていることだが、江戸時代には日本中に妖怪があふれていた。それは単なる迷信ではない。御政道の乱れが天地の運気をも乱すと、地獄の幽鬼どもが地上にあふれ出してくる。それを鎮め、地獄に送り返すのが公儀妖怪討伐士の任務。亡き父の遺志を受け継ぎ、妖刀村正を手に戦う咲夜は、時代劇映画の新しいヒーローなのだ。

 監督が原田智生で、特撮監督が『ガメラ』シリーズの樋口真嗣、主人公が美少女で、中身は妖怪が登場するチャンバラとなると、これはオタク向けの映画と思われるかもしれない。でもこの映画、今どき珍しいぐらいに勧善懲悪のわかりやすいストーリーで、子供が観ても十分に楽しめる内容。妖怪もあまりグロテスクにならず、デザインにはユーモアがある。主人公の咲夜、その弟である河童の太郎、咲夜を守る伊賀甲賀の忍者たちなど、キャラクターも輪郭がはっきりしていて魅力的。こうしたキャラクターからいくらでもエピソードを派生させることもできそうなので、これは夏番組としてぜひともシリーズ化してほしい。妖怪さえからめばどんな話でも作れるのだから、物語のバリエーションは無限だと思う。次回は伊賀と甲賀の忍者が大勢登場して、派手な忍術合戦をするなんてんはどうだろうか。たぶん作っている側は、シリーズ化を念頭に入れていることだろう。

 この映画最大の見どころは、映画のラストに用意されている妖怪・土蜘蛛との決戦。美しい土蜘蛛の女王を演じているのは松坂慶子だ。主人公の咲夜を演じている安藤希がちょっと素人ぽすぎるから、こうして敵役に大女優を配役すると全体がピリッと締まるんだよね。それに身長40メートルに巨大化した松坂慶子が、精巧なミニチュアセットをぶち壊しながらのしのし歩き回るなんて、それだけでもお金を払って観る価値がありますよ。技術的には平成『ガメラ』シリーズと同じ技術を使っているわけで、この場面の迫力は中途半端じゃない。でも暴れているのが松坂慶子だから、特に恐くはないんだけどね。このあたりのバランスもじつによろしい。配役という点で言うと、これはかなり贅沢な映画です。導入部には丹波哲郎や藤岡弘も登場。撮影所は松竹京都という時代劇の本場。陰影のある、いい絵作りです。

 チャンバラ映画としては、咲夜の殺陣の弱さは致命的。しかしこれも、同行しているのが忍者だから剣術比較ができず、目立った欠点にはならないようになっている。むしろ咲夜が村正の力に引きずられるように浪人たちを斬りまくる場面など、腰の据わらない彼女の身体がフラフラしているのがいい雰囲気を出していた。


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