パップス

2000/06/28 メディアボックス試写室
偶然手にしたピストルで銀行を襲うローティーンのカップル。
続出する少年犯罪をテーマにしたサスペンス。by K. Hattori


 『キャメロット・ガーデンの少女』のヒロインや『シックス・センス』の少女幽霊役で知られるミーシャ・バートンの主演最新作は、あの奥山和由のプロデュースによる“チーム・オクヤマ”作品。監督をはじめとするスタッフや出演者は全員がアメリカ人だが、日本側が出資して映画を作らせているということらしい。奥山プロデューサーは松竹時代、デ・ニーロと組んで「白鯨」を映画化する計画などをぶち上げていたものだが、その後の松竹解任騒ぎなどでこうした大風呂敷はすべてご破算。それでも『現実の続き夢の終わり』で台湾の映画監督と組んだり、この映画のようにアメリカの若手映画監督に資本提供したりしているのだから、国際的なプロデューサーとして多方面で活躍していることだけは間違いがなさそうですね。映画プロデューサーに不可欠なヤマっ気を、この人ほど強く感じさせる人はあまりいません。

 日本でも少年犯罪の凶悪化が何かと話題になっていますが、海外、特にアメリカはその何倍も事件が起きているし、社会の受けとめ方も深刻です。事件の数が多くなれば、凶悪な事件を「一部の異常な子供が起こした犯罪」と解釈することが不可能になり、社会の在り方そのものが問われてくるからかもしれません。この映画の主人公は、13歳のスティービーと彼のガールフレンドであるロッキー。スティービーはある日、留守中の母親のクローゼットから偶然ピストルを発見する。それをロッキーに見せびらかし、「銀行でも襲おうか」と戯れの会話に花を咲かせるふたり。それは「宝くじが当たったらどうするか」というのと同じような、とりとめのない夢物語のはずだった。だが学校に向かう途中、ふたりは通学路にある銀行に押し入ってしまう。

 何の計画性もなく銀行強盗を行おうとした少年少女は、あっという間に警察に取り囲まれてしまう。気紛れな少年少女強盗事件は、この瞬間から人質篭城事件に発展。警察は犯人が子供と知って、うかつに手を出すこともできない。人質たちは13歳の子供たちが振り回すピストルに怯え、「近頃のガキときたら!」と悪態をつきながらも、スティービーたちから逃れることができない。

 『狼たちの午後』から『キリング・ゾーイ』『マッド・シティ』『アルビノ・アリゲーター』、果ては『スペース・トラベラーズ』まで、篭城犯と人質と警察の葛藤を描いた映画はたくさんある。この映画もそうした篭城もののひとつだが、テーマになっているのは定番の犯人と警察の駆け引きなどではない。この映画の中では10代の少年少女たちが明確な目的もないまま簡単に重大犯罪の中に飛び込み、そこで初めて現実のリアリティ(変な言葉だな)と向き合うまでが、じつに丁寧に描かれているのだ。潤沢な知識を持つ“恐るべき子供たち”という顔の下に隠された、じつに脆弱な現状認識能力。こうしたアンバランスさは、日本の「荒れる子供たち」にも共通したものなのかもしれない。『スペース・トラベラーズ』より100倍は面白い映画でした。

(原題:PUPS)


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