チェコアニメ映画祭2000
(その2)

2000/06/20 シネカノン試写室
戦後チェコアニメの歴史を俯瞰する映画祭の試写。
「飲み過ぎた一杯」が面白かった。by K. Hattori


 チェコの人形アニメ作家、イジー・トルンカトブジェチスラフ・ポヤルの作品を中心とした特集上映を紹介する、マスコミ試写の2回目。今回はパヴェル・コウツキーの「視覚の外」、ルボミール・ベネシュの『パットとマット』シリーズから「生け垣」、ポヤルの「雄弁家」と「飲みすぎた一杯」、トルンカの「二つの霜」と「電子頭脳おばあさん」などが上映された。以下、それぞれの作品について簡単に印象を記す。

 木製の人形が荒野を歩く「視覚の外」は、主人公である人形が少し歩いては意地悪な大男たちにぶつかり、怒鳴られ、小突き回されるうちに、自分の行動すべてを操作している巨大な手に気付くという短篇映画。“巨大な手”の正体は、この作品を製作しているアニメーターのものだ。(登場するのはパヴェル・コウツキー本人だろうか。)アニメーターは人形を少し動かしてはカメラを操作してコマ撮りし、また人形を動かしてはカメラを操作する。しかししばらくすると、そのアニメーターの動作を生み出す、また別の巨大な手が現われて……。

 「生け垣」はガーデニングに凝り始めた主人公コンビが、生け垣をきれいに刈り揃えようとしてなかなかうまくいかないというショートショート風のコメディ。「雄弁家」は言葉とそれが生み出す心理状態を、文字の羅列やアニメーションの合成だけで表現した作品。文字の羅列がもつれ合い、からみ合い、かたまりとなり、ばらばらにほぐれ、四散して行く様子は面白い。物語自体はストレートすぎてヒネリが無いようにも思うが、言葉を文字の羅列にしたアイデアだけでも十分に面白かった。

 今回の上映作品のなかでいちばん面白かったのは、バイクに乗った青年がたまたま立ち寄った店で酒を飲まされ、夜道で事故死してしまうという「飲みすぎた一杯」だ。飲酒運転防止のキャンペーン映画のような内容に思えるかもしれないが、この作品の面白さはそんな教訓話のレベルにあるのではない。主人公の視覚を一人称で描写して、素面の時とほろ酔い気分の時を描き分ける手並みのよさ。ほんの一杯のつもりで口にした酒が、二杯三杯と度を超して行くくだりの心理描写。何より素晴らしいのは、青年が事故死するに至る夜道のスリル。真っ暗な夜道をひた走るヘッドライト。バイクの横を素っ飛んでいくガードレール。乗用車に無理な追越しをかけた青年の前に、突然現われる荷馬車の影。間一髪で危機を脱したあと、誇らしげにガッツポーズしてみせる青年の無鉄砲さ。やがて青年の目には機関車が飛び込んでくる。アクセルをふかして機関車を追い抜こうとする青年。車窓の明かりが道路に照射し、そこにバイクのシルエットがゆっくりとかぶさっていく。この光と影のコントラストがじつに見事。悲劇の予感を漂わせた場面ですが、ここにはアニメーション特有の「美」があります。

 いたずらものの霜の精が、人間を困らせようとする 「二つの霜」は人形アニメと平面の人形が合成された童話風の物語。「電子頭脳おばあさん」はSFです。

(原題:CESKY FESTIVAL KRESLENEHO A LOUTKOVEHO FILMU 2000)


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