だれも知らない夏の空

2000/06/01 シネカノン試写室
和歌山を舞台にした青春ロードムービーだが……。
主人公たちと旅をする兄弟は何者だ? by K. Hattori


 試験をさぼって学校の屋上でゴロリと横になる女子高生。ラジオから流れてくる「ポッポちゃん」という歌手の声に何かを感じ、ギターを片手に突然家を飛び出してしまう。故郷の島を後にして、彼女はどこに向かうのか。連絡船の乗客たちを前に演奏と歌を披露しながら、ヒロインのナツは「これから全国ツアーです」と笑う。

 ナツを演じているのは実際に路上ライブ活動を行っている女性シンガー、いしのだなつよ。ポッポちゃんことトモを演じているのは、関西でバンド活動をしているシンガーの渡辺智江。ふたりがギターをかき鳴らしながら歌う姿はかっこいいし、歌声もなかなか本格的。撮影は16ミリだけど、これで音がもっとよければねぇ……。でもショボイ音響でも彼女たちのスピリットは伝わってきます。たぶんこの映画の最大の見どころは、彼女たちの歌う姿がたっぷりフィルムに記録されていることだと思う。これで話がもう少しなんとかなってれば、地味ながら痛快な音楽映画の佳作になったでしょうに。

 ナツは旅の途中で、自分と同年輩のダイスケとシンペーに出会う。トモも同じ頃、不思議な紙芝居屋のおっちゃんに出会う。じつはダイスケとシンペーは兄弟で、紙芝居屋のおっちゃんはその父親らしい。おっちゃんはともかくとして、僕はダイスケ・シンペーの兄弟がうっとうしくてしょうがなかった。彼らはスクラップ置き場で暮らすホームレスで、賞味期限切れのパンや弁当を拾ってきて食べているらしい。着た切り雀の服はボロボロでアカじみており、なんだかひどく臭そうです。この映画の中に、なぜこういう人物がいなけれならないのかが、僕にはよくわからなかった。ナツとトモの姉妹をダイスケとシンペーの兄弟と対称的に配置し、それぞれの父親との関係を描くことで、父親と姉妹、父親と兄弟という、ふたつの家族の姿を描いていることはわかる。でもこのふたつの家族像を通して、監督は何を描こうとしているだろうか。シンガーソングライターを目指してギター1本で日本中を旅しているトモと、そんな姉に憧れて「私もシンガーソングライターになる」と心に決めているナツ。人生に目標を決めてまっしぐらに生きようとしている姉妹と、幼い頃に見た樹上の小屋の面影を追い続けている兄弟の違いは、どこにあるのだろうか。

 ギター抱えて女ひとりの渡り鳥人生。この設定は一種のファンタジーであって、実際にはこんなことがあり得るはずはない。でも主演ふたりの魅力でそんな非現実味がカバーされ、「この女の子たちだったら、こんな生き方が可能なのかも」と思わせてくれる。でもそんな幻想をぶち壊しにするのが、ダイスケとシンペーの兄弟なのです。彼らは現金収入がまったくのゼロなのに、どうやって生活しているのだろうか。父親とはいつ別れたのか。母親はどうしてしまったのか。彼らと父親との関係はどんなものだったのか。そうしたことがまったく描かれないまま、ただ得体の知れない若いホームレスがふたり出てきても、僕は彼らにまったく感情移入できないよ。


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