2000/05/23 SPE試写室
ストリッパーの母と、彼女を頼って上京した娘の葛藤。
浅草を舞台にした少し古風な人情劇。by K. Hattori


 黒木瞳演じるストリッパーと、今村理恵演じる娘との葛藤を描いた人情劇。浅草で20年に渡ってトップダンサーとしてストリップの舞台に立つ立花遥には、高校を卒業する娘・夏海がいる。郷里の母のもとでおばあちゃん子として育てられた夏海だが、祖母が亡くなったこともあり、東京の大学に進学するため母親を頼って上京してくる。母親は一人暮らしだが、借金で首の回らなくなった寿司屋の亭主に惚れ込み、何かと金を融通したりしているらしい。夏海はそんな母を横目に見ながら、アルバイトと予備校通いをはじめるのだが……。ストリップ劇場の社長に萩本欽一。遥が惚れる寿司屋の旦那に中村梅雀。劇場で照明係をしながら司法試験を目指す若者・下園達也に加藤晴彦。脚本は鍋島久美子。監督は『ルビーフルーツ』『おしまいの日』の君塚匠。

 離ればなれに暮らしていた母と娘が一緒に暮らし始め、いろいろな部分で衝突したり和解したりしながら互いに理解を深めていくという基本線に、下町風の人情風俗をからめた物語。登場人物はみんないい人で、嫌味のない人情劇になっている。話そのものは「母子もの」で「人情劇」で、途中からは「父と息子の葛藤と和解」などどいうエピソードも挿入されてかなりベタベタなのですが、これが人の善意に甘えたベタベタの展開になる一歩手前で踏みとどまっているのは、中村梅雀や萩本欽一といった芸達者たちの演技によるところが大きいと思う。萩本欽一は浅草の演芸場で芸人として育った人だし、中村梅雀は前進座の御曹司として生まれ育った人。それぞれ何となく役柄とダブってくるところがある。黒木瞳のストリップが見どころですが、肝心のヌードはまったく画面に登場しません。彼女のダンスは宝塚仕込みだから安心してみていられるのですが、脱いだ後の裸体は拝めない。これで「なんだよ、結局こんなものか」と思うのは早計。黒木瞳のヌードを見せないというのが、ラストのクライマックスで鮮烈な効果を生んでいるのです。

 脚本の段階でかなり嘘があるし、人物のキャラクター造形に物足りない部分もある。例えば浅草はストリップの世界では一流中の一流ですから、そこでスターになれば地方巡業などもあるはず。だから劇場には2番手3番手のダンサーが控えている。仮にヒロインが引退してもトップが入れ替わるだけです。社長がヒロインに向かって「あんたが引退したら劇場を閉める」と言うのはダンサーをおだてるリップサービス。もしそれが本心だとすれば、社長は彼女に惚れていたということになる。でも萩本欽一の表情からは、そんな男の気持ちが読みとれないのです。社長のヒロインに対する気持ちがもっと表に出てくると、ヒロイン・寿司屋・社長の三角関係のようなものが生まれて、物語に深みが出たと思うんだけどね。

 映画のラストで夏海が出した結論は予想できるものですが、この『四十二番街』パターンを出すにはそれなりの伏線が必要。いきなりこんなことが起きたら、劇場の他のダンサーは黙っちゃいないよ。


ホームページ
ホームページへ