ロスト・サン

2000/05/16 日本ヘラルド映画試写室
少年売買事件の黒幕を追うフランス人私立探偵の物語。
ダニエル・オートゥイユが英語映画初主演。by K. Hattori


 『八日目』『橋の上の娘』などで日本にも知られるフランス映画界の大スター、ダニエル・オートゥイユが初めて英語圏の映画に主演した作品。といっても、彼の役柄はフランス人の元刑事だ。オートゥイユ演じる私立探偵ロンバードが、ロンドンで探偵業をはじめて数年になる。主な仕事は浮気や素行調査などの地味なもの。だがその調査能力は折り紙付きだ。彼が警察時代の親友カルロスから依頼されたのも、簡単な行方不明人の捜索だった。消息を絶ったのはカルロスの妻デボラの弟レオン。麻薬常習癖があったというレオンは自発的に姿を消している可能性も大きいが、とりあえず彼を捜し出して両親を不安から解消してやるのがロンバードの役目だ。だが手がかりの細い糸をたぐった先には、ロンバードが思いもかけなかったおぞましい犯罪の世界があった……。

 消えたレオンはどこに行ったのかというミステリーと、主人公ロンバードがなぜ警察を辞めたのかという秘められた過去、ロンバードとカルロスの腐れ縁や、ロンバードが唯一心を許す娼婦ナタリーとの関係などが絡み合った映画です。アンダーグラウンドで行われている売春目的の少年売買という、いかにもありそうな犯罪を描きながら、人間同士の愛憎関係を綴っていく意欲作。ただしこうした意欲が必ずしも成果を上げていない。キャスティングだけで役の大小を判断するのは危険だが、例えばナスターシャ・キンスキーが演じたレオンの姉デボラや、カトリン・カートリッジが演じたレオンの恋人といった役は、物語にもっと複雑な影を投げかける人物であるはず。ところが映画の中ではこのふたりがまったくの添え物で、別に彼女たちがそこに登場しなければならない必然性などさらさらないように思えてしまう。むしろこうした役を割愛してしまえば、物語はずっとシンプルで力強いものになっていたのではないだろうか。

 嫌な事件に出会うと、誰だってそれを忘れたいと思う。でも忘れられない。そこから逃げ出しても、過去は人間の生き方に強い影響を与え続ける。忌まわしい過去から逃れるためフランスから逃げ出したロンバードは、彼の過去を知る人のないロンドンで安らぎを得られたか? じつはそこに安らぎなどないのだ。彼は自分の過去を知るフランス人娼婦ナタリーとの関係の中に、小さな安らぎを見いだしている。すべてを知った上で自分を受け入れてくれる女が、男には必要なのかもしれない。これは女も同じかもね。ナタリーにとってもロンバードは特別な存在なのだ。ふたりの間にあるのは恋愛感情じゃなくて、むしろ友情に近い関係だろうけれど、互いの過去や心の傷を分かり合ったふたりの絆はとても強い。

 この映画がヘタクソなのは、ロンバードとナタリーのカップルと、レオンとその恋人の関係、カルロスとデボラのカップルなどを、うまく対比できなかったところだ。彼らは自分たちの抱える過去とどう向き合うかという点で、じつに対照的な生き方をしている。そこを明確に描き分けられれば、もっといい映画になったと思う。

(原題:The LOST SON)


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