暗戦
デッドエンド

2000/05/10 TCC試写室
復讐に燃える犯罪者と刑事と奇妙な友情を描く香港映画。
雰囲気はいいけどあとひと工夫ほしい。by K. Hattori


 『ロンゲストナイト』『ヒーロー・ネバー・ダイ』などの暗いギャング映画で知られるジョニー・トゥ監督が、死期の迫った犯罪者と刑事の奇妙な友情を描いたクライム・ムービー。復讐のため病に蝕まれた身体にむち打って完全犯罪に挑む主人公の男をアンディ・ラウが熱演。彼から3日間のゲームの相手として指名されるホー刑事を演じるのは、『ロンゲストナイト』や『ヒーロー・ネバー・ダイ』にも主演していたラウ・チンワン。人質事件の交渉人という役柄は、サミュエル・L・ジャクソンとケヴィン・スペイシー主演の『交渉人』から頂いたアイデアだと思う。こうして臆面もなく面白い映画のアイデアをパクって来るところに、香港映画の活力があるのかもしれません。もっとも『交渉人』風なのは導入部だけで、中盤からはまったく別の展開になります。

 僕は同じ監督の『ヒーロー・ネバー・ダイ』には結構はまったクチですが、今回の映画はちょっと乗れなかった。話は面白いんだけど、主人公たちを取り囲む人間関係の描写があっさりしすぎていて魅力が感じられない。病気の男がバスの中で出会う若い女や、ホー刑事とインターポールの女刑事の関係など、美味しそうなネタを揃えているのにそこに踏み込んでいかないのがもったいないぞ。犯罪者と刑事という一見すると正反対に見える主人公たちだが、これは立場が違うからそう感じるだけ。実際にはふたりのキャラクターはよく似ているし、似ているからこそ犯人の男は交渉人としてホー刑事を指名し、ふたりの間には奇妙な友情が生まれもするのだ。でも似たような男がふたり登場してぶつかり合っても、映画としては少しも面白くない。やはりこれは主人公たちの周囲をもう少し掘り下げて、彼らふたりの違いをもっと際立たせてほしかった。そのためには周囲の人間関係がかなり重要な意味を持ってくると思う。

 アンディ・ラウ演じる男は病気で余命幾ばくもない一匹狼の男で、周囲には友人も恋人も肉親もいない。彼はたったひとりで死んでいくことを選ぶ孤独な男です。彼は半分死の世界に籍を置いた男です。この世にはほとんど何の未練もない。その彼が、思いがけずホー刑事との間に友情を生みだし、バスの中で知り合った女との間に淡い気持ちの交流が生まれる。死んだものと諦めていた彼の心に、少しばかりの温もりが戻り、彼は自分の命に執着し始める。そうした彼の心の動きがもっとダイナミックに描かれていると、ラストシーンの余韻も格別だったと思う。これはラウ・チンワン演じるホー刑事についても同じ。アンディ・ラウが「死」の世界から来た孤独な男だとすれば、ホー刑事は仲間や上司にも恵まれ人生をエンジョイしている男でなければならない。この映画ではその点で、ホー刑事のキャラクターがいまひとつ不明確。彼は職場で同僚たちにどう思われているのか、なぜ上司に反抗的なのか、情報提供者の女刑事との関係はどうなっているのか(ひょっとして本当にホモ?)など、もっとしっかり描けていれば名作になったのに……。

(原題:暗戦 Running Out of Time)


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