ブラウンズ・レクイエム

2000/05/09 日本ヘラルド映画試写室
ジェームズ・エルロイの原作をマイケル・ルーカー主演で映画化。
なんとも古くさい探偵ミステリー映画。by K. Hattori


 『L.A.コンフィデンシャル』の原作者ジェームズ・エルロイのデビュー作を、マイケル・ルーカー主演で映画化したミステリー映画。脚色と監督を担当したのはジェイソン・フリーランドという人物だが、経歴等はまったく不明で資料にも何も書かれていない。IMDbを調べても何も書かれていなかった。物語の舞台は現代のロサンゼルス。酒が原因で警察を辞めさせられた主人公フリッツ・ブラウンは、中古車ディーラーから車回収の仕事を請け負う一方、私立探偵としても形ばかりの事務所を構えていた。そこにやってきたのが、汗の匂いをプンプン漂わせた“ファット・ドッグ”と名乗るゴルフ・キャディ。彼はユダヤ人資産家と暮らしている17歳の妹が、自分のもとに帰ってくることを願い、相手の男に後ろ暗い点がないかを調べてくれとブラウンに依頼する。ブラウンはファット・ドッグの異様な雰囲気に不快感を持つが、車回収という現在の仕事にもウンザリしていた彼は、この仕事を引き受けることにする。

 映画は事件を回想するブラウンのモノローグで全編が埋め尽くされ、一匹狼の探偵がいかにして事件の渦中に巻き込まれて行くかを描いていく。主人公のモノローグ、謎めいた依頼人、マフィアと警察幹部の癒着、薄幸の美女など、道具立てもじつに古めかしい。これが半世紀前の探偵映画と違うのは、主人公が正義感に燃えるタフなヒーローではなく、アル中から更生しつつも酒からの誘惑を断ち切れずにいるだらしない人間としている点だろう。彼が警察を辞めたのは酒の失敗が原因であって、警察機構の何かと対立して組織の外に飛び出したといった格好良さは微塵もない。彼はまっとうな人生を踏み外した、社会からの落伍者なのだ。そして本人もそれを知っている。酒場での聞き込みの際、目の前に出された酒をじっと見つめてグラスを愛おしそうに手で包み込むしぐさの中に、彼の弱さと葛藤が見え隠れする。

 この物語はそんなダメ男が意地を張り通す物語です。彼は酒の誘惑には負けるが、事件の謎は解明する。しかしそれが何らかの社会正義を実現したかと言えば、そんなことはまったくない。彼の行動は彼ひとりの個人的な復讐であって、彼の行動を誰も誉めないし、評価するものもいない。この事件で主人公のダメ男が得たものと失ったものを差し引きすれば、結局は何も残らない。まともな人生を歩もうとした彼の生き方は挫折し、かえって前より悲惨な状態になってしまったかもしれない。基本的にこれは、主人公が転落して行く物語なのです。

 しかしこの映画は古典的な探偵映画のスタイルを踏襲しすぎて、主人公をニヒルなヒーローにしてしまったことでしょう。この話はダメな人間が反逆してさらに落ちていくのが面白いのです。主人公に中途半端な格好を付けさせてしまうと、ダメな人間が本来持つべきダメさを表現しきれず、単に冴えないボンヤリとした男に成り下がってしまいます。監督に経験がないせいかもしれませんが、これはもっとダメさを徹底してほしかった。

(原題:BROWN'S REQUIEM)


ホームページ
ホームページへ