ヒューマン・トラフィック

2000/05/09 映画美学校試写室
イギリスのクラブ・カルチャーを描く青春映画。
奇抜な演出にちぐはぐな印象も。by K. Hattori


 イギリスを舞台にした若者たちの青春劇。週末のパーティーだけを楽しみに生きている若者たちの、音楽とドラッグと恋愛についての物語です。主人公の一人称でストーリーが語られ、時折主人公がカメラに向かって語りかけたり、登場人物たちの心象風景を継ぎ目なしに挿入したりする手法は、いかにも『トレインスポッティング』以降のイギリス映画という感じ。イギリス本国では大ヒットした作品らしいのですが、僕はあいにくとこの映画に乗れなかった。どこが面白いんだかさっぱりわからない。単なる悪ふざけばかりのような気がします。

 僕も含めて映画の観客というのは、映画の中に登場する人物たちが「俺と同じだ!」と思えばそれだけで映画も好きになってしまう傾向がある。僕は「主人公が映画ファン」という理由で『ガス・フード・ロジング』が忘れられないし、「ガーシュインやワイルの音楽が使われている」という理由で『マンハッタン』や『ウディ・アレンの影と霧』が好きだし、「アル・ジョルスンの曲が流れる」という理由から『ジェイコブズ・ラダー』にも好印象を持ち、「主人公がミュージカル映画を観ている」というだけの理由であの『レオン』にだって少しは点が甘くなる。映画の中に自分が行ったことのある場所が登場すれば、それだけで自分と映画の距離が近づいたような気もする。自分のよく聞く音楽が劇中で使われていれば、それだけで自分も映画の一部になったような気がする。僕は家の近所でロケされている映画になると、途端に点が甘くなるもんね。そんなものです。

 たぶんイギリスの若い観客にとっては、この映画に登場する若者たちのライフスタイルが、自分たちの身の回りの現実をリアルに写し取っているように思えたのではないだろうか。僕はこの映画の語り口や演出が上手いとは思えないし、どんな時代の若者にも共感できる普遍的なテーマが描かれているようにも思えない。恋愛ドラマの部分は「ああ、こんなことってあるよな」と思う点もあったけれど、この映画で中心になっているのは音楽とドラッグに彩られたパーティー風景だもんね。僕はこうした方面に疎いし興味もないので、映画を観ていても登場人物たちにまったく共感できませんでした。

 もちろんこの映画はドラッグやパーティーについて描いた風俗映画ではなく、人生の中のさまざまな問題について悩む若者たちを描いた青春映画として作られている。家族との関係や、恋人との関係、友人たちとの関係などが物語の中心であって、クラブでの派手なパーティーシーンは彼らを取り巻く情景のひとつに過ぎない。でも僕は、ここで描かれているドラマ部分が、やっぱり弱いと思ってしまう。この映画の作り手は登場人物たちの何を描くかではなく、登場人物たちをどう見せるかに熱心になっているのではないだろうか。人物たちの心象風景として挿入されるシークエンスはどれも奇抜で面白いものだけれど、それと本来のドラマ部分がうまくかみ合っていないような気がします。

(原題:HUMAN TRAFFIC)


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