サイダーハウス・ルール

2000/04/27 東宝第1試写室
孤児院育ちの青年がリンゴ農園で人生を学ぶ物語。
アカデミー2冠。これはいい映画です。by K. Hattori


 今年のアカデミー賞で脚色賞と助演男優賞の2冠を達成した映画ですが、これは脚本が良かったとかマイケル・ケインの演技が素晴らしかったという以前に、映画そのものに対するご褒美なんだろうと思う。マイケル・ケインの演技が素晴らしいのはもちろんだけど、それ以外の出演者もすごくいい。シャーリーズ・セロンなんて、今までに観た彼女の映画の中でもベストだと思うよ。監督は『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『ギルバート・グレイプ』のスウェーデン人監督ラッセ・ハルストレム。『ホテル・ニューハンプシャー』『ガープの世界』のジョン・アーヴィングの原作を、アーヴィング本人が映画用に脚色している。出演は『アイス・ストーム』『カラー・オブ・ハート』のトビー・マグワイア、『クロッカーズ』『普通じゃない』のデルロイ・リンド、『マイ・フレンド・メモリー』のキーラン・カルキンなど。オスカー受賞のマイケル・ケインは、主人公の親代わりとなる孤児院の院長役でのご登場。

 物語の舞台は1940年代のニューイングランド。孤児院で生まれ育った主人公ホーマーは、院長であるウィルバー・ラーチ医師と看護婦たちの愛情に包まれて健やかに成長する。いずれはホーマーを自分の右腕にと望むラーチ医師だったが、彼は違法な堕胎手術を行う院長に反発し、自分の人生を探すために孤児院を出ていく。彼がやってきたのは大きなリンゴ農園。収穫期に農園にやってくる黒人の労働者たちと同じ小屋に寝泊まりしながら、ホーマーの新しい生活が始まる。ホーマーの友人と言えるのは、出征している農園の息子の恋人。やがてふたりは愛し合うようになるのだが……。

 おそらくこの映画のテーマは、人間にとっての「罪」の問題だと思う。法律を犯すことだけが罪ではない。その場で定められている規則や決まりを破ることも罪だろうし、友人や知人、雇い主に対して嘘を付いたり、信義にもとる行為をするのも罪だろう。人間は弱さゆえに罪を犯したり、自分の欲望のために罪を犯すと考えられがちだが、必ずしもそれだけが罪ではない。他人への優しさや愛情から犯す罪だってある。その時とるべき正しい行動が、結果として罪になる場合も多いのだ。

 この映画の登場人物は全員が何らかの罪を犯す。ラーチ医師は違法な堕胎手術を行っている。院内の子供が死んだときは他の子供に「あの子は養子に行った」と嘘を付く。ホーマーを自分の後継者にするため、理事会を騙そうともする。法律違反、嘘、文書偽造など、どれも罪と言えば罪。でもこれらはすべて、彼の優しさや愛情から生じたことなのだ。利己的な欲望から生まれる罪もあれば、他人への愛から生まれる罪もある。それが本当に罪と言えるのかどうかは、誰にもわからない。この映画の中では、主人公のホーマーがそれを学んでいくのだ。大人になるということは、人間の中にある「罪」の多様性と多義性に気づくことなのかもしれない。

(原題:THE CIDER HOUSE RULES)


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