ロミオ・マスト・ダイ

2000/04/06 渋谷東急
ジェット・リー(リー・リンチェイ)のハリウッド映画初主演作。
脚本の甘さにアクションも湿りがち。by K. Hattori


 『リーサル・ウェポン4』でハリウッド・デビューを果たしたジェット・リーの最新作。製作は『リーサル〜』と同じジョエル・シルバー。港に誘致するスタジアムの利権を巡って、オークランドでは中国系マフィアと黒人マフィアの対立が激化。誘致話がまとまるまで、双方のボスは一時休戦の紳士協定を結ぶのだが、下っ端連中の暴走は止められない。そんなピリピリした空気の中で、中国人ボスの息子が殺される。この知らせを聞いた兄は、香港の刑務所を脱走してアメリカへ。兄のハンは正義感の強い元警官で、本人は父の仕事を嫌っていたのだが、それでも父の罪の身代わりとなって刑務所に収監されていたのだ。愛する弟を守れなかった父に対する憎しみはますます募るが、この事件の黒人グループとの対立だけではない、別のきな臭さが漂っている。ハンは偶然知り合った黒人ボスの娘トリシュと共に、事件の背後にあるどす黒い罠の正体を探り始める。

 対立するグループの中にいる男女が巡り会うという「ロミオとジュリエット」型の物語だが、映画の中心は恋愛ドラマではなく、ギャング抗争の裏にある陰謀の解明にある。ジェット・リーのハリウッドでの初主演映画ということもあり、流麗なカンフー・アクションも最大の見せ場だ。しかしこの映画、物語自体があまり盛り上がらず、ジェット・リーの神業のようなアクションも少し湿ったものになってしまった。

 映画がつまらない原因のひとつは、人物配置があまりにもバランスよく対称的にできていて、人物の動きにダイナミズムが生まれないことだと思う。中国人と黒人のボスにそれぞれふたりの子供がいて、ひとりは父の跡を継ごうとしており、もうひとりは父の商売を嫌って別の生き方を探そうとしている。跡取りの息子はそれぞれ殺されるが、ボスにはそれぞれ信頼に足る腹心の部下がいて、それぞれに腹黒そうに見える。ふたつのギャング・グループは、鏡に映したようにそっくり同じなのです。

 でもドラマというものは、得てしてアンバランスな関係の中から生まれるんじゃないでしょうか。片方が金持ちで片方が貧乏。片方が体制側でもう片方が反体制。片方がマジョリティの利益代表なら片方はマイノリティの意見を代弁する。そこに葛藤が生まれるし、葛藤からはドラマが生まれてくる。でも黒人ギャングと中国人ギャングという違いは、本質的な対立にはならない。もちろん「ロミオとジュリエット」では両家の間に大きな差がなかったけれど、そこでは憎みあう両家と愛し合う恋人たちの対立が大きな葛藤とドラマになっていた。でもこの映画の主人公たちは、傍目にもいい雰囲気ではあるけれど、周囲の反対を押して強く愛し合っているという風でもない。単なる異性の友人みたいな関係では、そこにドラマなど生まれません。

 弟を殺され、その原因を探るうちに結果として父を破滅に追い込む主人公。これは「悲壮美」で描いてほしかった。この映画はちょっとコミカルで軽すぎます。

(原題:ROMEO MUST DIE)


ホームページ
ホームページへ