クラークス

2000/04/04 シネカノン試写室
『チェイシング・エイミー』『ドグマ』のケヴィン・スミス監督作。
'94年製作のデビュー作は低予算のモノクロ。by K. Hattori


 『チェイシング・エイミー』のケヴィン・スミス監督がモノクロの低予算で撮ったデビュー作。ニュージャージーの小さな町にあるコンビニを舞台に、そこでレジ打ちの仕事をしているダンテの1日を描いている。先日古書店で買ってきたシナリオの本(「シナリオライターになろう!」インタビュー・著/佐竹大心)によれば、シナリオコンクールに応募されてくる作品の中には、コンビニを舞台にしたものが非常に多いんだそうだ。シナリオライター志望者は、コンビニでバイトしていることが多いらしい。この映画のシナリオを書いたケヴィン・スミス監督も、実際にコンビニで働いていた経験があり、主演のブライアン・オハロランもレジ打ちの経験があるという。映画に登場する食料雑貨店クイック・ストップは、ケヴィン・スミスが実際にバイトをしていた店であり、彼は昼間この店で店員として働き、早朝と閉店後に撮影や編集をしてこの映画を作ったという。撮影日数は3週間。製作費は約350万円だそうな。

 この映画を観て、僕は『スモーク』を思い出した。カウンターの中に主人公の男がひとり。そこに入れ替わり立ち替わり客が訪れ、常連客や友人たちとの間に会話が生まれる。風変わりな客たちと、奇妙なエピソードの連続。舞台は店の中が多いが、時には店の前、隣のビデオレンタル店、店の屋上、住宅地などにも移動する。画面には時折字幕が出て、物語を小さな断片に切り分けていく。この映画は1994年の映画で、『スモーク』は翌年の作品だから、ひょっとしたらウェイン・ワンやポール・オースターはこの映画を参考にしたのかもしれない。

 1日の間にものすごく多くの事件が起きるという話だけれど、中心になるのは主人公ダンテと恋人ヴェロニカ、元恋人ケイリントンの関係。こう書くと三角関係のようだけれど、ダンテとケイリントンはもう何年か前に別れており、彼女の方は別の男と婚約したらしい。ヴェロニカとの交際と、ケイリントンへの未練の間で、ダンテは虚しく揺れ動く。ダンテがヴェロニカの過去の男性経験を聞いて怒り出すくだりは、『チェイシング・エイミー』にもつながるエピソードだ。ヴェロニカは一途にダンテを愛する健気な女だが、鼻っ柱が強くてナヨナヨしたところは少しもない。ついでに言えば、色気もあまりない。特別美人というわけでもない。対してケイリントンはいかにもセクシーな美人タイプで、浮気性なのが玉に瑕。ダンテとつき合っていた数年の間にも何人かと浮気をしたが、それでもダンテは彼女が忘れられない。

 物語が進行しているうちに見えてくるのは、ダンテにとってはコンビニ勤めが社会との緩衝剤になっているということ。彼は学校に戻る気もないし、かといって社会の一線に出て何事かを為そうという意思もない。彼にとってのコンビニは、彼を社会の荒波から守ってくれる防波堤。彼はそこでならいつまでも無責任な子供でいられる。モラトリアムです。彼が未練たらしく高校生時代の恋人にこだわり続けるのが象徴的です。

(原題:CLERKS)


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