ボーイズ・ドント・クライ

2000/04/04 FOX試写室
アメリカで実際に起きた殺人事件を描く異色の青春映画。
主演のヒラリー・スワンクがオスカー受賞。by K. Hattori


 主演のヒラリー・スワンクが今年のアカデミー賞で主演女優賞を取った作品。1993年にアメリカで起きた実際の殺人事件を題材にした、異色の青春ドラマだ。内容はほぼ実話に沿っているそうだが、主人公の恋人だった女性が「事実と違う」と映画会社を訴えているらしい。この手の“トゥルー・ストーリー”は現実の再現と言うより、現実の事件を原作にした映画化作品と考えた方がいいと思うし、観客の多くもそう受け止めていると思う。小説が映画化されるときだって、映画はそれを映画用に脚色してしまう。実在の事件に取材した映画も、現実を映画向きに脚色してしまうのは当然だと思うけどね。

 主人公のブランドン・ティーナは、本名がティーナ・ブランドン。肉体的には女性だが、精神的には男性という人物です。彼はネブラスカの田舎町で知り合ったラナという女性と知り合い愛し合うようになるが、それが原因で周囲と軋轢を起こすことになる。「お前が女だとばれたら殺されちまうぞ」という従兄弟の警告通り、ブランドンは自らの愛に殉じるように殺されてしまう。性同一性障害の主人公は気持ちの上では男性なので、彼が女性を好きになったとしてもそれは「同性愛」とはちょっと違う。ブランドンは「女性」ではなく、ペニスのない「男性」としてラナを愛そうとするのです。

 2時間の映画ですが、1時間少しを過ぎたあたりでブランドンの正体が周囲にばれてしまいます。この映画の面白さは、ブランドンの正体が明らかになったことで、彼を取り巻く人間関係にどのような変化が起きていくかを丁寧に描いているところです。それまで男性だとばかり思っていたブランドンが、じつは女性だったとわかった瞬間、人々は彼を憎んだだろうか? ブランドンが女だと明らかになった瞬間、周囲に起きたのはパニックだったのです。ブランドンを殺す男たちは、事実を目の前にして世界がガラガラと音を立てて崩れていくような恐慌状態に陥ってしまう。それが悲劇を生み出します。

 「真実が知りてえんだよ!」と叫びながらブランドンの下着をはぎ取る男たちは、単にブランドンの肉体的な性別を知りたかっただけではないと思う。世の男には奇妙な思い込みがあって、「男同士の友情」を神聖なものと考えているフシがある。男同士だからこそ分かり合える関係があり、言葉にしなくても伝わりあう信頼関係があるという安心感。それがブランドンの存在によって、一気に突き崩されてしまうのです。「お前は俺たちと一緒に連れションしたじゃないか!」という台詞が悲痛です。ブランドンが女だったと知った男たちは、彼をレイプすることでしか自分たちが「男」であることを再確認するすべを持たない。黙ってブランドンを受け入れてしまったラナに比べて、男たちはかくも弱い存在なのです。

 監督・共同脚本のキンバリー・ピアーズは、こうした弱い男たちに十分な目配りをしているものの、それを「男たちの弱さ」として描いてしまった。これを「人間の弱さ」として描ければ、もっといい映画になったのに。

(原題:BOYS DON'T CRY)


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