鬼教師ミセス・ティングル

2000/03/31 メディアボックス試写室
生徒の才能の芽を摘むことに生き甲斐を感じる教師を描く、
ケヴィン・ウィリアムスンの監督デビュー作。by K. Hattori


 中学生の頃、教師から「世間ではお前のような考えは通用しない」とたしなめられたことがある。高校生の時は美術の教師から「お前がデザイナーになどなれっこない」とも断言された。でも僕は今でも自分の好き勝手なことをして暮らしているし、美術教師の予言に反して一度はデザイナーとして働いていたよ。教師が生徒の将来を予想するとき、どういうわけか必ずネガティブな物言いになるのはなぜだろうか。教師のほとんどは学校を卒業した後すぐに学校に教師として舞い戻った人たちで、学校の外に広がる本物の「世間」や「世の中」になど触れたことがないはずなのに、ことあるごとに「世間では」とか「世の中では」と生徒に自信を持って吹聴できるのはなぜなんだろうか。僕は今でもそれが疑問だ。

 もちろんそこには、教師なりの教育方針や信念があるのでしょう。勉強熱心な教師もいるし、多くの生徒と接していれば、生徒の家庭を通して現実の「世間」を知ることもできる。意識して世間に目を向けようとしている教師の方が、何の問題意識も持っていないサラリーマンやフリーターよりは世間について知っているかもしれない。だから一概に教師を「世間知らずだ」とも言えないんだけどね。最終的には教師次第かもしれない。

 しかし世の中には生徒を目の敵にし、その行動や意見に冷水を浴びせ、自信や自尊心を粉みじんに打ち砕くことこそ教育だと信じているらしい教師もいる。どの学校にも、生徒が何をしても最初からバカにした態度をとる教師が、ひとりやふたりはいるものです。こういう連中は生徒に暴力を振るう教師よりも、被害が直接目に見えないだけタチが悪い。この映画に登場する歴史教師のミセス・ティングルも、そうした教師のひとりです。

 『スクリーム』や『ラストサマー』などの青春ホラー映画で売り出した、ケビン・ウィリアムスンの監督デビュー作。しかしこの映画はホラーではありません。主人公のリー・アンは成績優秀でありながら家が貧しく、奨学金がなければ大学に入学することができない身の上です。教科のほとんどすべてでA評価を受けている彼女ですが、歴史教師のミセス・ティングルはとかく難癖を付けてリー・アンを不当に低く評価している。自由研究の課題に最後の望みをかけたリー・アンは、こともあろうにミセス・ティングルからカンニングの容疑をかけられ、奨学金どころか退学処分の危機に陥る……。

 ベテラン女優のヘレン・ミレンが、冷酷非情なミセス・ティングルを好演。教育熱心で生徒を思いやる優しい表情や言葉の下に、たっぷりと毒を含ませた生徒への悪意が潜んでいる様子は恐いぐらいです。絶体絶命に見える状況下でも余裕たっぷりのその姿と、生徒の心の隙間を見透かしたように投げかけられる残酷な言葉の数々は、まさに「鬼ババ」「悪魔」そのもの。映画の中では古典ホラー『エクソシスト』が引用されていますが、ごく普通の人間の中にも残忍な悪魔が巣くっていることを、この映画は存分に見せてくれます。

(原題:TEACHING MRS. TINGLE)


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