センチメンタル シティ マラソン

2000/03/29 GAGA試写室
ともさかりえ主演のビデオ映画は一人二役の2部構成。
物語も演出も生ぬるい。寝てしまった。by K. Hattori


 眠い映画だった。そして実際に寝てしまった。くれぐれもイビキをかいていませんように……。久しぶりに僕を完熟(完全に熟睡)させたこの映画は、全編タイでロケした、ともさかりえのイメージビデオのような作品。ビデオ撮りしたものをキネコでフィルムにしているため、画面にメリハリがなくて全体に薄ボンヤリしている。加えてお話がベタベタに甘っちょろくて、芝居の歯切れが悪いもんだから全員が大根役者に見える上、アクションシーンも生ぬるいし音楽の使い方もあざとい。ひょっとして僕がウトウトしていた20分ほどの間に、何かとてつもなく素晴らしい場面があったのだろうか。前後のつながりから考えて、とてもそうとは思えない。

 幼い頃の交通事故がきっかけで、生き別れになった姉妹。姉のマチネはギャングに拾われて殺し屋になり、妹のソワレは言葉を失ったまま花屋の店員になる。ふたりは「もうひとりの自分」を探して喧噪の中をさまよう。そんな話です。マチネとソワレをともさかりえが一人二役で演じている。映画の前半はマチネの物語で、後半はソワレの物語という2部構成。話は単純ですが、こんな映画は話が単純な方がいい。ストーリーの勘所さえ押さえておけば、まず大きくはずすことはないからです。でもこの映画はその予想を大きく裏切って、思い切り勘所をはずしてます。そもそもこれは、企画自体に問題があったのかもしれません。そもそも、なぜこの映画をタイで撮影しなければならなかったのか? そこに企画の必然性が感じられないのです。

 タイでロケしているのだから、台詞の半分ぐらいはタイ語なり英語なりになるのかと思っていたら、この映画はほとんどすべてを日本語で押し通しています。映画に登場する風景はどう見てもタイですが、そこに登場する人物たちは日本人ばかり。プレス資料はこれを「無国籍感」などと形容していますが、単に撮影コストが安いからタイに行っただけじゃないのかね。言葉も上手く通じぬ異郷で、日本人の女の子がたったひとりで殺し屋をやっているという設定なら面白かったのに、殺し屋の元締めも日本人なら、殺しのターゲットも日本人、その妹も日本人(当たり前だ)、主人公にからんでくるもう一人の女殺し屋も日本人では興ざめです。同じようにコストがらみで海外ロケしていても、『SCORE 2 / THE BIG FIGHT』や『WiLD ZERO』には、そこを日本に見せようとする工夫があったよ。無国籍感というのは、どう考えたって日本には見えない場所を日本だと言い張ることや、日本を舞台にして日本では絶対にあり得ないシチュエーションを成り立たせてしまうことから生まれるのではないでしょうか。この映画はその点で手を抜いています。

 映画の前半と後半で別々の視点から同じ町を舞台にした物語を描き、最後にそれが同じ場面を共有して終わるという構成です。でもこれは後半のエンディングが前半の導入部につながるだけで、構成としてはあまり芸がないんだよね。このへんも、もう少し工夫がほしい。


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