ボンベイ to ナゴヤ

2000/03/27 シネカノン試写室
インド人のギャングが名古屋に逃亡。それを追う青年刑事。
チープでシュール。バカな映画です。by K. Hattori


 キャッチコピーは「名古屋発マサラムービー」になってるけど、これって順序が逆だよね。正確には「マサラが名古屋にやって来た」と言うべきでしょう。中身は日本で撮影したインド映画です。上映時間は1時間50分。インド映画にしては短いのですが、これはもともと3時間あった映画を短く編集しているだけです。

 ミュージカル映画を短く編集するとき、普通はミュージカル・ナンバーをカットしていくのが普通です。『オズの魔法使』や『雨に唄えば』にも、録音や撮影されたものの本編に収録されていないナンバーが存在します。アウトテイクスと呼ばれるこうしたナンバーは、『ザッツ・エンタテインメント』などの映画で観ることができる。またミュージカルをテレビ放送するため尺を大幅に縮めるときは、話の本筋に関係ないナンバーを次々に切っていくものです。僕は以前、歌の場面がほとんど残っていないシナトラの『夜の豹』を観たことがあります。こうなるともはや、ミュージカルという形骸すら残されていない。ところが『ボンベイ to ナゴヤ』は、映画の尺を短くするときドラマ部分を切ってます。観客が喜ぶのはミュージカル・シーンだと知り尽くした上での配慮。しかしこれでは、お話やシーンのつながりがチグハグになってしまう。それでも何となく話が通じるのは、この映画がひどく単純な物語構成だからです。

 両親と親友を殺したマフィアのボスを追って、インドの刑事ヴィジャイが日本にやってくる。ボスはヤクザの親分にかくまわれ、名古屋のどこかに潜んでいるらしい。インドから来た踊り子のソナーとヴィジャイの恋愛などをからめつつ、物語は怒濤の復讐劇に突入する。物語の導入部こそインドですが、途中からはほとんどが名古屋ロケ。どう考えても撮影許可など取っていそうにない状況下で、主人公たちが歌って踊る姿はかなりヘンです。通行人が「あの人たちはいったい何でしょう?」と怪訝な顔で通り過ぎたり、「目を合わせたら恐い目にあうかもしれない」と顔を背けて無視したり、カメラに向かってピースサインしたり、踊るふたりを指さして笑っていたり……。この映画の面白さは、出演者と通行人のコラボレーションのたまものと言ってもいいでしょう。

 インド映画のミュージカル場面と言えば、サリーの美女が数十人登場して乱舞する、豪華絢爛な場面をすぐに連想します。でもこの映画は予算が少なかったようで、エキストラはほとんどが現地調達。しかも歌もできなきゃ踊れもしないボンクラどもが勢揃いです。(ひょっとしたら香港あたりで調達してきたか?)主人公たちが歌う横で、無気力なヘラヘラ笑いを浮かべながらチンタラ踊る姿はかなり不気味。ドラマ部分が極端に切りつめられていることもあって、物語の展開は相当にシュールです。名古屋から東京に向かう新幹線が、また名古屋に戻ってきてしまった時は、「新幹線はいつから山手線になったのだ!」と思ってしまった。歌舞伎ショーにも頭がクラクラしたぞ。きわめて知能指数の低い映画です。

(原題?:Bombay to Nagoya)


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