喜劇王

2000/03/23 シネカノン試写室
チャウ・シンチー監督・主演の映画業界内幕コメディ。
ヒロイン役のセシリア・チャンが可愛い。by K. Hattori


 香港の喜劇王チャウ・シンチーが『喜劇王』という映画に出るというのだから、これは期待しないわけには行かない。共演は『チャイニーズ・オデッセイ』と『食神』でチャウ・シンチーと共演しているカレン・モクと、これが映画デビュー作となる新人セシリア・チャン。映画の序盤には、あのジャッキー・チェンがチョイ役で顔を出すというオマケも付いている。シンチー映画の常連ン・マンタが、映画スタジオで働く弁当屋のオヤジ役で出演し、甘いマスクのシンチーと名コンビぶりを見せる。

 今回シンチーが演じるのは、売れない役者のワン。独学で演技理論を学んだ彼は、公民館で管理人のアルバイトをしながら映画のエキストラとして撮影所に出入りし、いつの日かスターになることを夢見ている。だが「始めに理論ありき」「どんな端役にも役作りは必要」という彼のスタイルは撮影現場で認められず、最近ではエキストラの仕事にもありつけない始末。エキストラはあくまでも「その他大勢」であって、そこで過剰な役作りをする彼はカメラ前の異物に過ぎないのだ。そんな彼の前に、女子高生パブのホステスをしているピュウピュウが「うまい客あしらいの方法を教えてほしい」と現れる。ワンの演技指導で店の売れっ子になったピュウピュウは、いつしか彼を愛するようになる。同じ頃、ワンの演技にかける情熱に着目した女性アクションスターのキュン・イーは、彼を大作映画の相手役に大抜擢する。

 あらすじだけを見れば爆笑に次ぐ爆笑の大コメディになりそうな話ですが、今回の映画はあまり笑えなかった。『食神』のようにパワフルなギャグで腹がよじれるほど笑わせるのではなく、ホノボノとしたユーモアで思わずニッコリするような映画になっている。『喜劇王』というタイトルだけど、主人公はコメディアンじゃないというのも看板に偽りありだと思う。ギャグが次々に登場するのは映画の前半だけど、後半は映画を夢見る青年のサクセスストーリーとラブストーリーをからめたような内容。笑いだけを期待して映画を観ていると、ちょっとはぐらかされたような気がするかもしれない。でもチャウ・シンチーの映画には、よくこういうセンチメンタルな場面が出てきます。『チャイニーズ・オデッセイ』もそうだった。ギャグに次ぐギャグから情感たっぷりの展開に持ち込むと、普通は映画が継ぎはぎめいた印象になるんだけど、チャウ・シンチーの映画はその点が上手くてあまり違和感はない。さんざん笑わされた後に、映画を観てしんみりしている自分に気づきます。

 それでも今回の映画には、少し疑問も残る。主人公は天才俳優なのかそれともバカなのか、結局最後までわからない。不遇の天才が映画撮影所では才能を認められず、それ以外の場所で演技の才能を秘かに開花させるという話ならわかりやすいんだけど、必ずしもそういう話ではない。主人公の芝居への情熱が最後にどう報われるのかを描かないと、この映画はハッピーエンドにならないような気がするけどね。その点がちょっと気になった。

(原題:喜劇之王 KING OF COMEDY)


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