アナザヘヴン

2000/03/22 松竹試写室
飯田穣治の原作・脚本・監督によるサイコスリラー風のSFホラー。
物語が一本調子すぎる。もうひとヒネリほしい。by K. Hattori


 『リング』『らせん』や『失楽園』など、映画とTVドラマで同じ企画を進行させて相乗効果を狙うメディアミックス戦略は最近ごく当たり前になっているが、この『アナザヘヴン』はそれをさらに一歩進めた“メディア・コンプレックス”と銘打ったユニークな企画だ。映画とドラマで同じ世界を共有し、時に登場人物や場面を交錯させながら、それぞれが別々の物語を紡いで行く。映画が世界を表から見ているとすれば、TVは同じ世界を裏側から描く。映画とTVで表裏が揃い、ひとつの大きな世界が完成するという趣向だ。原作は飯田穣治。映画版はもちろん飯田穣治が監督と脚本を担当し、TVでも脚本と第1話の演出を担当するという。映画とTVは同じ世界を共有するものの、映画版は連続猟奇殺人事件を描き、TV版では連続女性失踪事件を描くという。

 映画の発端は1件の殺人事件だ。アパートの部屋で発見された死体には脳味噌がなく、台所の鍋の中では脳味噌のシチューが作られていた。殺人事件とカニバリズム(人肉食)が交差する、世にもまれな猟奇殺人。やがて同様の事件が連続して発生する。主人公の早瀬マナブは事件を捜査するうちに、事件の犯人が人間ではない何者かであると考えるようになる。

 物語の前半は面白かったが、終盤ですべてがB級に堕ちた作品。連続猟奇殺人事件で大きなモチーフになっていた脳味噌料理が、映画の後半でまったく姿を消してしまう理由がよくわからない。そもそも犯人は脳味噌料理を食べていたんだろうか? 料理を作っていたのは事実だけれど、どの犯行現場にも料理がそっくりそのまま残されているらしいところを見ると、これは料理を作ることが目的で、食べることは二の次だったのだろうか。犯人にとって被害者の脳を取り出す行為にどんな意味があるのかが、どうにもわかりにくい。抑えがたい暴力性や残虐性の発露だとしたら、もっと残酷な殺し方は世界にごまんとあるんだけどね。

 この映画の面白い点は、犯人の実体が次々と人間に乗り移って行くため、誰が犯人なのかわからず、主人公たちが徹底的な疑心暗鬼に陥るところ。主人公の部屋を訪れた女医が犯人ではないかと疑い、遠回しに探りを入れる言葉の駆け引きなどは最高です。人間に乗り移る異生物によって疑心暗鬼が生まれるというアイデアは『遊星からの物体X』からの引用だと思いますが、この映画はそれをかなりうまくアレンジしていると思う。犯人がビルを飛び越す場面は『マトリックス』に似た場面があったし、この映画はいろんな映画から様々な名場面をパクってます。人肉料理もエド・ゲインやジェフリー・ダーマーという本物がいるしね。人間の想念が実体化してモンスターになるというアイデアも、『禁断の惑星』以来の古典的なアイデア。個々のアイデアを他の作品からいただくのは構わないけど、この映画の問題はストーリー自体に強力なパワーがないこと。だからアイデアの引用ばかりが目立ってしまうのです。


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