クレイジー・イングリッシュ

2000/03/16 シネカノン試写室
中国で生まれたまったく新しい英語学習法「瘋狂英語」。
その創始者を追うドキュメンタリー映画。by K. Hattori


 『東宮西宮』の張元(チャン・ユアン)監督が、中国で画期的な英会話習得方を開発した李陽(リー・ヤン)という人物を追いかけたドキュメンタリー映画。主人公である李陽はまったくの独学でアメリカ英語をマスターし、試行錯誤の中で開発したメソッドに「瘋狂英語(クレイジー・イングリッシュ)」と名を付けた。1969年生まれというから、まだ30歳そこそこの人物だ。彼は瘋狂英語をテーマにして19歳から中国各地で講演を行い、今までにのべ1300万人の生徒を教えたという。独特のジェスチャーを交えた彼の英語学習法は非常にユニーク。それ以上に李陽本人がユニーク。この映画は中国全土を飛び回る李氏に密着するかたちで、現在の中国と中国人の生の姿をあぶり出している。

 観ていてすごいと思ったのは、李陽が生徒たちへの英語学習の動機付けとして「金儲け」を全面に出している点だ。日本でも英語を学んでいる人たちは大勢いるけれど、その動機に「金儲け」をあげる人は皆無だと思う。日本では英語を学ばなくても仕事が出来るし、世界有数の経済大国の中で豊かな生活が出来る。僕だって英語なんてぜんぜんダメだけど、まったく困ってないもんね。英語が出来なくても困らないのは中国も同じだけれど、李陽が生徒たちに訴えるのは「英語が出来ると外国で仕事ができる」「外国人と対等な立場で対等な商売が可能になる」「同じ働くなら海外で働いた方が金になる」「金持ちになれば親孝行が出来る」「外貨を稼ぐことが中国のためにもなる」という理屈です。「たかが英語で何を大げさな」とも思うけれど、李陽の弁舌はたなかか巧みで、映画を観ているだけでも何となくそれが正しいような気がしてくる。「英語を学んで外国人と仲良くなりましょう」や「外国の書物を原書で読めるようになりましょう」「英語ができれば海外旅行でも便利」よりも、「英語で金儲けしよう」の方がインパクトがあるしわかりやすいんです。これは中国という貧しい国だからこそ生まれるモチベーション。それだけに力強くて切実です。

 李陽という人の英語学習法に、実際どの程度の効果があるのか、僕にはちょっとわからない。ただし映画としての面白さはピカイチです。李陽という人物のカリスマ性や教育熱心さをたっぷり描いた後で、彼本人の周到な自己演出や、抜け目のないビジネスマンぶりまでしっかりと描いている。彼は教育者であると同時に、講演ビジネスを仕切るカリスマであり、英語教材を売る教材メーカーの社長でもあるのです。講演の演出にいちいちダメ出しをしたり、部下たちの前で新しい英語教材について細かく指示を出す姿は完全にビジネスマン。マスコミの取材に対し、自分の信念や生い立ちを語る姿には、「どうしたら効果的か」という自己演出が入っている。この映画はその舞台裏までしっかりと映し出す。

 「世界に出て外貨を稼げ」とアジテーションする李陽が、じつは生まれてからこちら、中国から一歩も外に出たことがないというオチも秀逸です。

(原題:瘋狂英語 CRAZY ENGLISH)


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