ミラクル・ペティント

2000/03/15 メディアボックス試写室
子供のいない夫婦のもとに火星人たちがやってくる。
スペイン製のへんてこなファンタジー映画。by K. Hattori


 コマーシャル業界出身の映画監督というのは多いが、この映画の監督ハビエル・フェセルもスペインのコマーシャル業界出身だという。意地悪スレスレの奇抜で人をくったキャラクター造形や独特の映像センスはいかにもコマーシャル出身らしいし、毒々しい描写や原色を多用した色彩センスはいかにもスペインだ。純真で汚れを知らない老夫婦と、その家族となったふたり組の火星人、巨漢の犯罪者などがドタバタを繰り広げるというファンタジーだが、映画としてはなんだかよくわからなかったというのが正直なところ。たぶんエピソードの細部にいろいろなパロディや引用がちりばめられているのでしょうが、それがまったく理解できないので笑えない。単純なドタバタ劇としてはヒネリが効きすぎです。

 例えば僕は、映画の冒頭で強面の神父が子供たちに「三位一体」の講義をする場面で笑ってしまいましたし、どう見てもアッシジのフランチェスコ(小鳥への説教で有名な聖人)に見える像を「聖ニコラス(子供たちの守護聖人。別名サンタ・クロース)」として拝む場面も面白かった。この像が栓抜きやレンチになっているというのも可笑しい。でもこういうのはキリスト教の知識がないとわからないわけで、一般的な日本人がこの面白さをどの程度理解できるかはわからない。僕にしたって、たまたま興味のある分野だからこれがわかっただけで、他の場面に別分野から似たような引用やパロディがあっても気づかないし、面白いとも思えないでしょう。

 物語自体は「子供のいない老夫婦が神様にお願いしたら、不思議な力で子供が授かりました」というもの。子供が産まれない理由というのがじつにバカバカしくて、この夫婦は子供の頃から「タラリン、タラリン」と叫びながらズボンのサスペンダーをしごくと、それで子供ができると思ってたのです。子供はコウノトリが運んでくれるものだと思っている夫婦は、50年もの間、子供の到来を待ち続ける。そこに現れたのが、UFOの故障で老夫婦宅の庭先に不時着した火星人。老夫婦はこれを点から授かった赤ん坊だと考える。それからさらに25年たち、アフリカから恵まれない子供を引き取ろうと相談していた夫婦のもとにやってきたのが、医療刑務所を脱走した大男。彼は子供の頃に目の前で母を失ったトラウマを持っている。老夫婦はこの大男も自分たちの子供として育てようとする。こんな話に、タイムマシンやロケットや隣家の発明マニアの男などが次々に関わってくるのですが、何がどうなっているんだか途中からさっぱりわからなくなってしまいました。

 映像的な遊びがかなり大きな映画なので、こういう映画が好きな人もいると思います。登場する小道具類も凝っていて面白い。時代考証や風俗考証はまったく無視されていて、すべては完全な作り物の世界です。こういう映画は一部で熱狂的なファンが存在すると思うんですが、僕にはまったくピンと来なかった。スペインで大ヒットしたってことですが、本当なんでしょうかねぇ……。

(原題:El Milagro de P.Tinto)


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