イグジステンズ

2000/03/09 GAGA試写室
クローネンバーグ監督が描くグロテスクな悪夢世界。
今回はゲーム機をめぐるミステリーだ。by K. Hattori


 カルト監督デビッド・クローネンバーグの新作は、ヴァーチャル・リアリティーを利用した最新ゲーム機をめぐるミステリー。アンテナ社の新作ゲーム
「イグジステンズ」の発表会で、ゲーム開発者のアレグラが銃撃された。アンテナ社の見習社員テッドは、アレグラを連れて会場から脱出する。犯人の目標は何なのか? アレグラの首には巨額の懸賞金がかけられ、アンテナ社内部にもスパイがいるという。これでは不用意に本社に連絡して保護を求めることもできない。すべての秘密は「イグジステンズ」の中に隠されている。アレグラとテッドは共にゲームの世界に入り込んでいくのだが……。

 まるで『ビデオドローム』の現代版リメイクのような映画だ。『ビデオドローム』には、生きているテレビ、ビデオテープを飲み込む女性器のような腹
の裂け目、手の先がピストルに変形する描写などが登場した。爆発したテレビからは内蔵が飛び出す。『イグジステンズ』に登場するのは、内蔵が詰まった生きているゲームマシン、人間の背中に開けられたプラグ接続用の穴と、そこに差し込まれる肉色のケーブル、動物の骨や歯で作られたピストルなどだ。『ビデオドローム』ではメガネ屋が陰謀の黒幕だったが、この映画ではガソリンスタンドやスキー用品店が重要な舞台になっている。

 映画の中では、人間の背中に開けた穴(バイオポート)とゲームマシン(メタフレッシュ・ゲームポット)をケーブル(アンビコード)で直結し、脊髄に
直接ゲームの情報を送り込むという設定。この背中の穴がいかにも女性器か肛門を連想させてエロなのです。穴を見ているうちにムラムラしてそこに舌を入れようとしたり、穴に指を突っ込むとき指を唾液で湿らせたり、チューブを押し込むとき唾液で濡らしたりする場面がいちいち「なんてエッチなんだ!」と思わせる。背中に穴を開ける場面では、それを出産と結びつける台詞もあったりする。こうやっていちいち小道具をセックスと結びつけるのが、いかにもクローネンバーグ節なんだよなぁ。僕は好きですけど、グロテスクさにウンザリする人も多いかも。

 主人公たちはゲームの中の虚構と現実を何度も行き来するうちに、次第にどこまでが虚構でどこからが現実かという境界線を見失っていく。ゲームの中でゲームをし、さらにその中でゲームが行われているという入れ子細工のような構成。完璧なバーチャル・リアリティの中では、感覚も意識も現実世界と何ら変わりない。そこで人を殺すことは、現実に人を殺すことに比べてどれだけ罪深いことなのか。ゲームの中の人殺しと、現実世界の人殺しにどれだけの差があるのか。クローネンバーグは「現実と虚構」「実態と幻想」という二元論世界を突き崩し、両者の間に明確な差などないことを暴き出す。これはクローネンバーグがいつも持ち出してくる、彼のライフワークとも言えるテーマだと思う。ただ今回は現実と虚構の入れ子構造という物語の筋立てが面白すぎて、テーマそのものは少し後退したかもしれない。好きだけどね。

(原題:eXistenZ)


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