ボクの、おじさん
THE CROSSING

2000/02/03 松竹試写室
14歳の甥っ子と29歳の叔父の交流を描いたヒューマン・ドラマ。
監督・脚本は東陽一。主演は筒井道隆。by K. Hattori


 東京でデザイナーをしている川口浩二は、29歳の独身男。会社では部下をふたり持つチーフだが、最近クライアントの部長と関係がうまく行っておらず、おまけに郷里の兄からは長患いの父が死んだという知らせが届き、さらにその兄の中学生になる息子が郵便局で強盗未遂事件を起こして捕まったという。浩二は久しぶりに故郷に戻り、家族と再会するのだが……。

 『橋のない川』『絵の中のぼくの村』に続く、東陽一監督の最新作。全2作も日本の風景がしっとりと情感豊かに描かれた佳作・傑作だった。今回は前2作と違って現代が舞台だが、熊本の風景と方言をうまく映画のモチーフにして、『絵の中のぼくの村』の高知に負けないぐらい濃厚な日本の匂いを感じさせてくれる。主演は筒井道隆。恋人の凛を演じるのはつみきみほ。いい加減というわけではないが、どこか力が抜けて支点の定まらない浩二のキャラクターを、筒井道隆が好演していると思う。仕事一筋に打ち込んでいるわけでもなく、家族に特に大きな愛着があるわけでもなく、恋人との関係も妙に淡泊で執着がない男。来るものは拒まず、去る者は追わず。変にサラサラしたところのある人物だ。キャラクターとしては篠原哲雄監督の『洗濯機は俺にまかせろ』に通じるものを感じたのだが、今回の映画ではさらにそれを深く掘り下げている。浩二と甥っ子(14歳の強盗未遂犯)の交流を描きながら、今どきの14歳の心情と、今どきの29歳心情、その奥にあるドロドロとした未整理な感情をうまく描き出していると思う。

 この映画のテーマは「巣立ち」ということなのだと思う。と言っても、単に人間の成長や家族との関係を描いているわけではない。人間を取り囲んでいるいろいろな環境がその人にとって「巣」なのであり、人間は成長すればそこを飛び出していかなければならない。そこにはいろいろな葛藤があるし、苦しみもある。同時に自由も存在する。ここで描かれる巣立ちは、必ずしも今ある環境を離れるということを意味していない。心の中で自分自身と周囲の関係を清算することが、この映画に描かれている巣立ちなのだ。主人公の甥っ子・拓也にとって、家族や友人たちとの関係を心の中で精算する時期が来ていたのだ。主人公の浩二にとっても、会社や恋人との関係を見つめ直さなければならない時期に来ていたのだ。自分を包み込んでいる不自由のない環境に別れを告げて、人間は一歩前に踏み出さなければならない時がある。心の中で何かに踏ん切りをつけることで、新しい何かを手に入れるエネルギーを得られることもある。

 プレスの中には『通過儀礼なき今』なんて言葉があって、なるほどと思わされてしまった。社会的な通過儀礼が存在しない社会では、個人個人が自分で人生に区切りをつけるしかない。人間が大人になるのは、いろいろと苦労があるのですね。僕もまだまだ子供です。踏ん切りが付かないことが、いっぱいあるものね。ちょっといい映画なので、なるべく多くの人に観てもらいたいです。


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