オーディション

2000/02/02 シネカノン試写室
再婚相手を捜す中年男が落ちた恋の落とし穴……。
本気で背筋が寒くなるサイコ・ホラー。by K. Hattori


 村上龍原作、天願大介脚色、三池崇史監督、石橋凌と椎名英姫が主演のサイコ・スリラー映画。これはマジで恐かった。映画を観ていて、久しぶりに震え上がってしまいました。こんな経験は『リング』以来かもしれない。恐怖演出なんてある程度バリエーションが限られているので、大抵は「お、この手できたね」「ふ〜ん、なるほどね」と先読みしながら余裕を持って鑑賞できる。ところがこの映画は、そうした先読み云々がまったく役に立たない。特に斬新な恐怖演出があるわけでもないんだけど、ミステリー仕掛けの物語と、人間心理の盲点をついた巧みな演出に見事にはまり、両手にジットリと大量の汗をかかされてしまいました。三池監督は『DEAD OR ALIVE/犯罪者』もすごかったけど、あの面白さは用意周到さが破れかぶれに転じる破天荒さが命。今回の映画は徹頭徹尾計算ずくの面白さで、三池監督の芸の細かさをたっぷりと堪能させられてしまう。参りました。

 妻を亡くして男手ひとつで子供を育ててきた主人公・青山重治は、息子の薦めもあって再婚を真剣に考え始める。だがお仕着せの見合いは嫌だ。できるだけ多くの女性の中から、自分の理想の女性を見つけたい。中年男の我がままだが、それを聞いた親友の吉川は突飛なアイデアを考え出す。映画の主演女優を捜すオーディション名目で大勢の女性を集め、その中から気に入った女性をデートに誘えばいいと言うのだ。はじめは乗り気でなかった青山も「俺に任せておけ」という吉川の言葉に乗せられて、ついその気になる。そしてオーディションの当日、彼は運命の女性に出会う……。

 観客は最初から、この映画がサイコ・スリラーだということを知っている。中年男が運命の女に翻弄されるラブ・ストーリーだなんて誰も思ってない。この映画はそれを最初からバラしているから、観客は青山が出会った運命の女・山崎麻美がいつ彼に向かって凶暴な素顔を見せるのかを、今か今かと待っている。麻美の不気味な素顔は、観客にチラリチラリと見せられる。だが青山から見た麻美が、清楚で控えめでその上美しい理想的な女性であることも十分に見せる。青山は麻美の魅力の虜になり、彼女への恋心に目をふさがれて、彼女の不気味な素顔からあえて目を背けてしまう。

 この映画の中で、麻美は用意周到な罠で青山を破滅に導く。だがその罠の仕掛けはきわめて簡単。もし彼女がこれほどまでに美しくなければ、誰もこの罠には引っかからない。彼女は罠を隠そうとしない。それは第三者として映画を観ている観客にはよく見える。罠をカモフラージュするのは、罠にかかった男本人の心理なのだ。愛する人の嫌な部分を見たくないという純情が、この男を奈落の底に突き落とす。彼が落ちたのは、恋の落とし穴。恋することの喜びやときめきを一度でも味わったことのある人なら、この主人公のはまった罠が、いかにありふれた物なのかがよくわかるはずだ。男女の初デートには絶対に向かない映画なので、気をつけるように。


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