アイアン・ジャイアント

2000/01/26 ワーナー試写室
宇宙から来た巨大ロボットと少年の交流を描くアニメーション。
単純な話だけど、これはすご〜く泣ける。by K. Hattori


 1957年、米ソは冷戦時代の真っ最中。そんな中、人類初の人工衛星スプートニクが打ち上げられた。同じ年の秋、メイン州ロックウェルの沖合に宇宙から謎の物体が墜落した。それは身の丈数十メートルの巨大ロボット。上陸して森の中に隠れているロボットを発見したのは、近所に住む少年ホーガースだった。彼はロボットと友達になるが、同じ頃、巨大な鉄人の噂を聞きつけた政府の職員が町にやってくる……。

 ワーナーの新作アニメーション。物語は単純。人物配置も型どおり。主人公は母ひとり子ひとりの家庭で、母親は毎日夜遅くまで食堂のウェイトレスをしている。テレビのホラー映画と漫画が大好きな冒険好きの少年は、森の中でロボットを見つけて友達になる。少年の味方になるのは、町はずれに住むスクラップ業者兼芸術家の男。ロボットの噂を聞きつけて町に来た軍人は、若くて野心的だがちょっと間抜け。登場人物は必要最小限に単純化されているが、単調にならない程度にエピソードが添えられている。1時間28分の短い映画だけれど、この時間できちんと物語が完結するのは、こうした人物像の単純化によるところが大きい。アニメだと生身の俳優が持っている空気や存在感といったものを削ぎ落とし、物語に本当に必要な要素だけを残せる。だからこそ、この時間内でこれだけ芯の太い物語が作れるのでしょう。同じことを生身の俳優に演じさせたら、もっと脆弱な映画になってしまったと思う。

 お話も面白いのですが、それ以上にテーマが明快なのがいいです。巨大ロボットのアイアン・ジャイアントは、宇宙から来た巨大な戦闘マシンです。自分の身を守るために、自分に危害を加える者に対して反撃する機能がプログラムされている。これはもちろん、人間が持っている攻撃性や暴力性のメタファーになっている。アイアン・ジャイアントは人間そのものです。町にやってきた軍隊は巨大ロボットと戦いながら、自分たち自身の影と戦っている。アイアン・ジャイアントが自分の身を守るために戦っているように、軍隊も国家と国民の安全を守るために戦っている。相手を理解せず、はじめから敵と見なした態度をとることで戦闘が始まり、誤った情報が戦闘に大義名分を与え、戦闘はどんどんエスカレートする。防衛のための戦闘は、いつしか双方が壊滅的なダメージを受けるところにまで拡大する。そうなったら、戦闘は誰にも止められなくなってしまう。

 「人間にとっての暴力」という大きなテーマを持った作品でありながら、物語はあくまでもホーガース少年とアイアン・ジャイアントの友情を描きます。クライマックスはひたすら泣ける。涙がドバドバ出る。世の男どもはここで自分の中に眠っている男の子の血が目覚め、男泣きにオイオイ泣くだろう。アメリカでは批評家受けしたものの興行成績が伸びなかった映画で、日本ではメジャーのチェーンに乗らずにワーナー系のシネコンが中心の興行になるらしい。でもこれは応援するぞ!

(原題:THE IRON GIANT)


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