シュリ

2000/01/22 パンテオン
韓国情報部員と北朝鮮テロリストの戦いを描くアクション巨編。
日本映画もこのガッツを見習って欲しい。by K. Hattori


 3ヶ月前にシネカノンの試写室で観たのだが、今回1週間だけという期限付きで大きなスクリーンに登場するので、初日に渋谷まで観に行った。(鑑賞オフに参加するという目的もあったのだが……。)館内は立ち見こそ出ていなかったようだが、ほぼ満席状態。アクション・シーンにおけるドルビー・デジタル音響の効果は今回初めて体験したものだが、狭い室内で銃弾が飛び交う際の金属音が、ビリビリと伝わってきて迫力がある。この映画、韓国では空前の超大作だというのだが、製作費は日本円にして3億円ほどらしい。これって、製作費が少ない日本の基準で言っても「比較的低予算」だよ。そういう視点でこの映画を観ると、予算がない部分をいろいろヤリクリしている台所事情が見えてきて、(パンテオンの大きなスクリーンで観ているせいもあるのだろうが)ショボイ場面もなくはない。アクションシーンでやたらカメラを振り回すのも、制約の中で画面に活劇の醍醐味を加えるための工夫だろう。この映画をハリウッド・メジャーの大作映画と比べては、ちょっと可哀想だと思う。比較すべきなのは、ドルフ・ラングレンやマイケル・パレが主演しているような、日本ではいきなりビデオになってしまうクラスのB級のアクション映画です。

 僕は2度目の鑑賞で物語のアウトラインも飲み込めている分、この映画の優れている点も、残念な点もすっかりわかってしまった。ただプラスとマイナスを天秤に掛ければ、この映画はプラス面の方がはるかに多い映画だと思う。マイナス面の最たるところは、物語が本来持っている面白さが、脚本や演出の力不足から観客に十分伝わっていないところだ。例えば最後に主人公がテロリストを射殺する場面は、その前にテロリストが主人公の暗殺に失敗するエピソードとの対比になっている。しかしそれがきちんと伝わってこないから、一部の観客は疑問を持つ。最後に留守番電話のメッセージで観客を泣かせにかかるのですが、これは『デッドゾーン』に登場した主人公の手紙と同じ構成にした方がよかった。銃撃戦の前に電話メッセージを観客に聞かせ、それを主人公の男がまだ聞いていないという風にすれば、テロリストの気持ちに観客が感情移入できるし、主人公たちの対立の悲劇も深まってくる。さらに、あの長ったらしいエピローグも短くできるし、観客は感動に浸ったままエンディングまで突っ走れたはずだ。

 この映画に感動できるか否かは、北朝鮮側のテロリストにどれだけ感情移入できるかにかかっている。彼らは最初から死ぬ気です。自分たちが死ぬことで、理想とする朝鮮の未来が切り開かれると信じている。しかし一足先に韓国に潜入したひとりのテロリストは、そこでひとつの出会いを経験し、ひとりの人間として生きて行く幸せを発見してしまう。北朝鮮で過酷な訓練を勝ち抜いたテロリストにとって、その幸せがいかに温かく、かけがえのないものであったか……。そんなことを考えると、やっぱり映画の最後に泣けてきてしまうのです。

(英表記:SHURI)


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