釣りバカ日誌イレブン

2000/01/19 松竹試写室
鈴木建設にリストラの嵐が吹く中、釣りバカコンビは沖縄へ……。
前半は最高。後半は無茶苦茶。脚本が悪い。by K. Hattori


 昭和63年に第1作が封切られて以来、毎年のように作られている『釣りバカ日誌』シリーズの最新作。今回の映画は「イレブン」だが、途中に『釣りバカ日誌スペシャル』と『花のお江戸の釣りバカ日誌』が加わっているため、トータルでは13本目になる勘定だ。このシリーズはずっと栗山富夫監督がメガホンを取っていたのだが(『スペシャル』は森崎東監督)、今回は『てなもんや商社』の本木克英監督にバトンタッチし、若々しくて新しい釣りバカの世界を作っている。芝居のテンポ、ギャグのスピード感などはまさに今の感覚で、映画の開始直後からゲラゲラ笑いっぱなし。音響も最新のドルビー・デジタルになるなど、新しいことにチャレンジしようという意欲が感じられるフレッシュな作品になった。

 しかし面白かったのは映画の中盤まで。映画の舞台が沖縄に移り、ハマちゃんとスーさんが別行動を取り始めると、物語は快活さを失って一気に失速してしまう。沖縄に釣りをしに行ったはずのハマちゃんスーさんコンビなのに、スーさんは沖縄の戦跡巡りで憂鬱な顔。こうして「沖縄の心」を持ち出してくるあたりが、脚本家山田洋次のセンスなのだろう。沖縄と戦争の記憶は切っても切れないのだし、ましてやスーさんは戦中派世代。沖縄を訪れて過去の戦争を振り返るのもよかろう。しかしそれが物語の本筋を曲げてしまったのでは、この映画が『釣りバカ日誌』である必要性などないではないか。戦争の傷に触れたいのなら触れればいい。でもそれは、『釣りバカ日誌』という映画の中ではあくまでも脇筋のエピソードであるべきです。

 ギャグはなかなか秀逸なものが多くて大いに笑わせられましたが、今回の映画は脚本が悪すぎる。鈴木建設に外資系の経営コンサルタントが入ってリストラの嵐が吹き荒れそうになるという前提に、まったく社員の危機意識が感じられないのはどういうことだ。これでは映画の中で見せるスーさんの苦悩の表情も、最後に披露される大演説も、まったくドラマの中で効果を発揮しない。

 このシリーズは寅さん映画と同じで、ハマちゃんスーさんコンビが恋に不器用な男女を結びつけるのが定番のストーリーになっている。今回は村田雄浩と桜井幸子が社内で知り合い、遠距離恋愛の結果結ばれるのだが、この結論の強引さは無茶苦茶すぎる。恋が進行するプロセスをすべて省略し、結婚に至る一般的なプロセスをすべて省略し、いきなり女性の側が寿退社してしまうのだ。正式な婚約もしていない、結納も交わしていない、結婚の日取りも決まってない、新生活の目処もまったく立っていないのに、結婚を決心した途端すぐに退社してしまうなんて、現実にあり得るだろうか。もしあり得ると思っているのなら脚本家は大馬鹿野郎だし、あり得ないと知っていてこの脚本を書いたのなら手抜きもいいところだ。ほんの少しの補足説明があれば問題が回避できるのに(例えば有給休暇を消化させるとか)、それすら思い描けない脚本家の怠慢ぶりに驚いてしまった。


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